序章2話 黎明
この世界は異世界の例にもれず魔法という概念がある。人、魔族に関わらず、誰でも魔力を持ち、魔法を扱うことができる。偶に魔力を持たない者がいることもあるが、それは10億人に1人いるかどうかの例外で、魔力を持たない者たちは異端者と言われている現状がある。
ここまで説明して聡明な人ならすぐ分かるだろう。・・・そう、私はその10億人に1人の仲間である。父と爺以外の家族から蔑まれているのはこれが理由である。父上は「軍閥なのだから魔力は関係ない」と、爺は「私が仕えているのはアルラウネ様ただ1人です」とそれぞれ言って私の味方をしてくれている。父上が認めてくれてるのには他の訳があるのだが・・・
「父上、私です。アルラウネです。」
「入っていいぞ。」
「失礼します。・・・こんな朝から呼び出すなんて、ついに私を勘当することにしましたか?」
「なわけ無かろう。唯一の私の純正な後継者をそう安安と手放せるか。次期軍務大臣としてすでに国王陛下には話してる。今更だろう。」
「・・・国王陛下認めたんです?私を。」
「あの方は実力主義だ。国をより良く出来る人材なら子供だろうと女だろうとまして異端だろうと使いにいく人だ。・・・今の社会、貴族の女どもは金と家柄にしか興味はないし、国の事務を出来る器量の子供なぞ居なかったからお前の言うような『クソジジイ内閣』になっただけなのだ。・・・もちろん有能な者はいるぞ、国王陛下本人と宰相であるルヴルス公爵だな」
裏を返せばそれ以外は無能なんだとはあえて口を塞いだ。
・・・・私を父が認めている理由はこれだった。私は魔力が無いと分かった時点で1人手に生活が出来るようにあらゆる分野を触っていた。前世の記憶が戻ってからそれに更に拍車がかかった。計算分野においては特に秀で、経理に関してはたった1年で完全に公爵領全体の収支決済を任されるところまで登った。その後、秘密裏とは言え公爵領全体の業務や王宮で父がしている仕事も回ってくるようになった。他にも言語学や商業学全般に手を伸ばし、領内の市民たちからも次期候補として名前が上がっていた。・・・単純に言えば、私は仕事ができる人だから認められているのだ。仕事をできるが故、持っていたら手放せなくなってしまった。それが私だった。・・・ファザコン過ぎて父上から見たら可愛くてたまらないのはあるかもしれないが。
「それで、どうしましたか?」
「ああ、お前から預かった今年度の収支報告書何だが・・・更に赤字が増えてないか?」
「ああ・・・金食い虫ですよ。」
「だよな・・・・・まったく。」
「「はあ」」
二人して大きなため息が出る。問題は公爵領1の金食い虫達のせいだった。
「ちなみに今年度の浪費割合はエーテルお母様が4割、ミカエルお兄様とベレッタお姉様が3割づつです・・・私は個人資産から落とさせてもらいました。・・・領内収支には関係ないですが。」
「お前は領内でしか物買わないだろ。結局戻ってくるからわざわざ記載なしでいいだろ。」
「経済学ですよ。領内を発展させたいなら領内に金をバラ撒けば良いのです。そしたら対内的にも対外的にも吐ける市民の金銭が増加します。すると市民としては金銭の余裕が生じ必要意識が大きくなります。まあ、需要と言いますね。・・・で、その需要をカバーしようと供給量も上がる。資金調達で体外的な資金が多くなるため領内の合計金銭が増加する。結果、領内で黒字が出る。そういうことです。」
「は、はあ・・・」
経済学の基礎知識である。残念ながらこの世界の貴族は自分がお金を貯めることしか考えてないが・・・
「ミカエルには次期当主は任せられないな・・・アルラウネ。」
「え?家内からの反対エグくないです?」
「潰せば良い。」
家内に味方は少ない。特に金食い虫3人、8年前から王都に行き、それ以来一切領に帰ってこない母、兄、姉は私が魔力の無い異端だとわかった時点で私を家から追い出そうと必死こいていた。私のことを見たくないと王都に出ていったときは内心清々した。・・・経理書の赤色数字は増えたわけだが
「来週からお前も貴族学院だと言うのに・・・誰が領地経営をするのだ・・・」
「父上がやってください。7年間も領政やらしてきたのは父上でしょう?途中から王宮での仕事も私に持ってきてたの分かってますからね。」
「バレてたのか・・・そうだな、どうせお前も王都に行くのだ。私の代わりに王宮での仕事やってくれないか?」
「・・・明らかに領内の労働基準法守ってない気がしますが・・・それは今更ですよね・・・まあ、私も父上の仕事の肩代わりを受けるために学院の入学成績で主席取ったんですから。それくらいなら代わってあげますよ。」
正直、中の上ぐらいまで落としておいても良かっただがそれだと校則などがキツく長時間拘束される中等クラスに入れられる(裏ルート情報)ため授業時間は早くあれな私は上等クラスを目標に、ついでに主席は学費全額免除があるのでサラッと主席を取り。学生寮は使わず近くにある爺の知り合いのバーの二階を貸してもらう(ありがたいことにタダで)。実質無料で貴族学院へ入学できた。
「・・・アルラウネ、お前、新入生主席の挨拶でって話があっただろう?いい加減王都行かなくて大丈夫か?」
「・・・父上、そういうことは早く言っておいてください。今日出発の日じゃないですか。」
「はあ・・・急ぎ準備しろ。領の端まではお前の開発した自動車?ってやつで送ってやるから。そこから馬車で王都までは5時間少しだ。」
「分かりました。急ぎ準備しておきます。」
部屋を出て爺と2人で準備する。学用品は事前に爺の知り合いのバーまで運んでもらっているので持っていくのは社交界で着るごっついドレスと護身用に特注で作ってもらった武器だけ。さっさと自作スーツケースに詰め込んで家を出るのだった。