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ミナミヘ セイラ ~第3の眼の覚醒~  作者: 楠本 茶茶(クスモト サティ)
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第8部分 復活2(カナタ)

第8部分 復活2(カナタ)


 ずっと寝たきりでいると血液循環が鈍くなり、いつも下になって重さがかかる皮膚の血流が悪くなるとその部分が細菌感染を起こしてんだりするようになる。この、いわゆる褥瘡じょくそうを避けるためには2~3時間おきに体位変換をする必要があり、介護者には大変な負担を強いることになる。周囲には様々な器具や電極電線やチューブがあり、それをうまくかきわけながら体位変換をするのはなかなか大変だったが、セイラの場合は近いうちに回復する見込みがあったので、ミナミも遣り甲斐を感じながらつづけることができた。


 ふと目覚めたミナミがそっとセイラの体位変換をしているところで目が開き、

「ありがとう、ママ」

と言った。


「あら起きたの、セイラ」

「うん、なんか寝疲れちゃった… なんとなくイチゴミルク飲みたい気分かも」

「ふふふ、まだ無理… ん、でもそろそろ良いかもね。聞いてみるよ、お医者さんに」

「お願いね、ママ。そういうヨーグルトとかでもいいから」

「身体が欲しがっているなら上げてもいいってアタシは思うんだけどな」

「…だな」


 ミナミは一瞬絶句した。が、知らん顔をして続けた。

「さっきね、パパに電話したんだ」

「そういえばパパの顔見ないね」

「ははは、そうか… パパはもう日本だよ」


「えっ アンナは? ばぁばは?」

「み~んなだよ」

「ママだけ?」

「そ」

「じゃラリアはママとアタシだけなんだ」

「うん」


「ちょっと待って… じゃアタシはいったい何日寝てたの」

「かれこれ5日目だね、これで」

「アタシのおでこの… 包帯?これ?」

「そうね、傷口はだいぶふさががってきたし、乾いてきたかな。でも触っちゃだめだよ」

「でも気になるじゃん…」

「気になるだろうけどね、セイラのおでこのとこは頭蓋骨が無いの。あの鉄パイプでスポンとね。まぁるい穴が開いたまんまなんだ」

「やだ… あ、それってなんだっけ、そんなの居たよね、カナタ… そうだ、ムカシトカゲ」


 ミナミは瞳を開いてまじまじとセイラを見詰めた。

「あれが棲んでるのってオーストラリアだったっけ?」

「やだ、ママとぼけないで、あれはニュージーランドでしょ」


 ミナミは眼を伏せて一呼吸置いてから作り笑いをセイラに向けた。明らかに心の動揺を抑えようとしていた。セイラはそんなミナミを不思議そうに眺めていた。


「齢はとりたくないものね。なんだかムカシトカゲだったかコモドドラゴンだったか判らなくなっちゃった… あれ、コモドドラゴンはどんなのだっけ?」

「あれはインドネシアのコモド島、リンチャ島、フローレス島あたりに棲んでる肉食性の大型のトカゲ。いったん噛みついたら唾液には毒があるから、持久力勝負でイノシシやシカをしつこく追いかけ回すうちに毒が回ってバッタリってやつ、あとは引き裂いて飲み込むように食べちゃうの。体温も恒温性だって言われてるアイツだよ。まるで恐竜みたいな感じの…」

「そ、そうだっわね。パパは言ってたっけね、コモドドラゴンのコドモはコドモドラゴンって」

「だな… それそれ、そっちがコモドドラゴン」


「じゃあムカシトカゲってどんなのだったっけか?」

「ニュージーランドの海沿いの限られた島だけに棲んでいて絶滅が心配されてる原始的爬虫類でさ、ミズナギドリとか海鳥の巣に一緒に暮らしてる。トカゲって言うけど実は今のトカゲとは結構縁が遠いし、低温に適応してるし、心拍も呼吸もゆったりしてて寿命100年とか言われるヘンなトカゲだけど… ママ思い出せた?」

「そうそう、そうだったね… そして最大の特徴は」

「「第3の眼!!」」


 セイラはそれがどうかしたの、というような表情でミナミを見ている。


 ミナミはセイラを真っすぐに強く見返した。そして叫んだ。

「カナタ!」


 セイラは瞳を開いて驚きの表情を見せた。しかし数瞬後

「カナタだってさ… セイラだけどそうかもしれないね」

意味の解らないコトバを口に出して目を閉じた。


「セイラ… カナタは生きてるわ… あなたの中で…」

「でも、いきなりどうしたのママ… 説明して」

「ちゃんと話すから聞いて。ゴメンね、まだ言ってないことがあったの… て言うか、なんかそんな話がうまくできなくてさ。アタシも科学者の端くれだからね」


 セイラは茫然としつつも小さく肯き、ミナミの目を見て手を繋いだ。

「セイラの体内に入ったのはね、タチャンだけじゃなかったの。驚かないでね、セイラの脳の中にはね、カナタの脳の一部も入り込んで癒着してるんだよ、どう見ても…」

「やっぱりね…」


「なんかあるの? 心当たりが」

「なんとなく違和感はあったかな。でもイヤなものじゃなくてさ、どこか懐かしい感じの」

「実はパイプを取る手術のときにお医者さんが気付いてね、これもう1人の脳だと思うけど、なにか奇妙なゼリーみたいなものがこの辺全部覆っていてうまく切り離せそうにない、他のたくさんの怪我人の手術オペもあるし、時間もないのでしばらくこのままで良いか、って聞いてきたの…」

「ふうん… カナタの脳みそがね…」


「これからもう一枚の写真を見せるけど、さすがのセイラもこれは驚くと思うしちょっと心配な写真なんだ。ココロの準備は良い?」

「大丈夫よ、ママ」

「アタシも最初はビックリしたし鳥肌たったけど、何回も見ていたらなんか神々しくみえてきたんだよね、カナタもセイラも… だからむしろしっかりと見てほしいの、いくよ」


それはカナタの頭を貫通した鉄パイプが、さらにセイラの額に突き刺さっている衝撃の写真だった。


「うん… お医者さんの話だとね、このパイプに中にはカナタの脳が入ったままセイラの頭の中に打ち込まれていてね、セイラの脳の中にめり込んだ形になってたんだって。普通なら内臓移植と一緒だから拒絶反応が起きるけど、壊死もしてないしなぜかもうすでにゼリーみたいな塊に包まれて癒着していたし… 差し支えないならこのままでも良いかってね、一言だけ相談があったのよ」

「それで… なんて答えたの」

「アナタたちはね、二人は本来は他人だけど、お互い好きあってたから、むしろそのままの方が本望ですって… パパと相談してそのまま頭の中に入れといてもらったのよ」

「ふうん… それでなんかうまくいっちゃったってワケ?」

「たとえ死んじゃうとしても、セイラ、そしてカナタもその方が良いでしょ? それに… たぶんゼリーみたいなのってサラドンのことでしょ? 絶対サラドンのおかげだろうね」

「だな…」


「ほら、それがカナタのクセでしょ」

「えっ? ナニが」

「その、だなって言うクセ」

「そうだけど… アタシ言った?」

「言った言った。これで3回目」

「えっ、待って、そんな… おかしい」

「おかしくない。事実だから」


 母娘のくだらない水掛け論の間に、サラドンについての簡単の説明を試みておこう。

サラドンが最初登場したのは、以前の作品「ミナミヘ ススメ」の第5部分である。


 南極の地底湖「イザナミ湖」において湖水を採取したとき、おそらくは偶然で隕石のカケラが入ってしまったサンプルがあった。後日これを倍率1200倍で検鏡したときにははじめはつい眠ってしまったミナミだったが、改めて検鏡してみたところ周囲の膜をフワフワと動かしながら漂う生命体を発見した。しかしこの生命体は何かに驚くと非常に小さく分散してしまうのだ。

 分散してしまっても15分程経てばまるで「サラダドレッシングの油滴のように」じわじわと集合し、大型化する不思議な生命体だった。おそらく遺伝子はRNAであるが、奇妙なことに通常のL(左旋回型)-アミノ酸に加えてD-(右旋回型)アミノ酸を必要とする非常に特殊な… むしろ地球の生命体として今まで知られることのなかったような性質を持っていた。


 生物学的には大発見だったが、未知の生命体であるだけにより慎重に取り扱う必要があり、深く研究するために、また政治的軍事的に悪用されないとように、極秘のうちに日本国内に持ち帰ったのだ。しかしミナミヘにまず漏洩ろうえいし、一家の住居に近くでも繁殖している可能性があって、別の名目を立て企図きと秘匿ひとくしての大消毒が行われた。

 しかしミナミヘの子供たちであるカナタ、セイラ、アンナはすでに感染していることが危惧きぐされたこと、そしてイザナミ湖の湖水をゲンパツに利用しようとする某国の計画を中止させ、南極や地球環境を保全したい日本政府の政策にススメとミナミの力が必要だったこともあって、ミナミヘ家および子供の教育係としてのばぁばも帯同のうえで昨冬(南極では夏)南極へ赴いたのである。


 サラドンには食べ物に混ざり、傷付いた唇や消化器の表面粘膜から寄生的に感染して、じわじわと宿主の思考や行動を操ることができるという特技があった。ススメたちはサラドンの協力を得て某国交渉団にサラドンを感染させ、彼らをコントロールして会議の主導権を握り、なんとか政治的勝利を収めることができたのだった。つまりサラドンはまだ発見されたばかりでろくに研究もされていないうちから「某国ゲンパツ計画阻止の切り札」としていきなり実戦デビューし、勝ち目のなかった交渉をなんとか勝利の線でまとめ上げた「陰の功労者」でもあったのだ。

 そしてこれに続く非公式な軍事的勝利まで勝ち取って喜びに沸いたのもつかの間、南極からの復路で某国がテロ首領ドン率いる軍に依頼して派遣した旧式潜水艦の魚雷を受け、砕氷船しれとこは大破したのだった。この雷撃でカナタはほぼ即死したが、カナタが庇ったセイラは何とか生き残って、いま病院で回復を待っているところなのだ。


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