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ミナミヘ セイラ ~第3の眼の覚醒~  作者: 楠本 茶茶(クスモト サティ)
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第3部分 蹉跌(さてつ)

第3部分 蹉跌(さてつ)


「それが… 哨戒しょうかい機が居たらしいんです」

「なんだと?」

「不思議ですが… オーストラリア海軍の哨戒部隊がすぐ近所にいたそうで…」

「すぐ近くに、だって?」

「はい。命中したときには既に5キロほどに迫っているヘリがいたそうで、第2撃を諦めるしかなかったとの報告でした」

「5キロだと? もっと前からヘリの接近には気付いていたはずだろうが」

「明らかにこちらに近づいてきたので、このタイミングを逃しては撃つ機会がないと判断したとか」


ややあって元首様のひとりごとのような述懐じゅっかいが聞こえてきた。

「なるほど、今撃つか諦めるかしかなかったか…」

「私は撃って良かったかと思いますが…」

「それはそうだが… それにしてもオーストラリアか… おかしいな」

「そのとおりです。なんともいぶかしいですよね」


「待て… マズいぞ。いかにテロ好きの首領の手下とは言え、調べられたら一目瞭然ではないか。ターゲットは深海に沈める計画だったはずだぞ、ギール」

「それはそうですが… とにかく今から撃沈を試みるのは無理です」

「しかしそれではあまりにマズい… どうするつもりなんだ、ギール?」


 少しの沈黙のあと、ギールが反問した。

「ではオーストラリアと開戦しますか?」

「いや、それは… それもマズいな… なぜ状況を確かめていなかったのだ、潜水艦は? そもそもなぜ哨戒部隊が近くにいたのだ、ギール」

「それは… そこまではなんとも」

「責任者は誰か、わかっとるだろうな」

「は、はい… 今は沈没を祈るしかありません。なるべく深いところで…」

「止むを得ん… もう少し様子を見るとするか」

「はぁ… はい。ああ、もう一つ許可を得たい件があります」

「なんだ、言ってみろ」

「撃った潜水艦を自沈か… または撃沈する許可をいただいておこうかと… あらかじめ、ですが」


「… そうか、証拠と証人には消えてもうおうと、な」

「やむを得ますまい」

「勲章を夢見る連中は自沈はするまいな… あのテロ首領ドンの部下でもあり…」

「仰せの通り… 今から自沈させても、全世界生中継の中での乗員救助になるのは必至かと」


 沈黙の時間が続いた。


「ギール… 撃沈できる潜水艦サブマリンは近所にいるのか」

「はい、幸いおとり役で派遣したあの原潜がすぐ近くに居りますが…」


「仕方あるまい… では《しれとこ》を雷撃したその不埒ふらちな国籍不明潜水艦を撃沈するのだ。まさか味方同士討ちする潜水艦などいないだろうと、そういう言い訳もできるということか。しかも《しれとこ》のかたきを取ってやったと恩まで着せようと…」

「恐れながら、そのとおりです」

「あのテロ首領ドンには何と説明するかな」

「そう… 説明より実益でしょうね。 外貨に困ってるのでやはり思い切ってカネをはずんで… ついでに女も付けますかな…」

「うむ… 一隻と50人ほどが散ることになるからな」


「やはり… それでもあのテロ首領ドンは激怒しますよね」

「するだろうなぁ… するだろうが、対日戦の一環だと言えば協力せざるを得まい。爺さん以来の我が国の恩を思い出させてやれば言いなりになるしか… ぐぅのも出ずに諦めるだろうよ」


「ですよね… わかりました。その線でシナリオを描いておきます」

「うむ… よきに計らえ」

「ありがとうございます」


 立ち去ろうとしたギールの背に元首様の低い声が届いた。

「ふふ、おぬしはやはり使えるな… しかし油断はならん」


 慌てて向き直り、深く一礼したギールが元首様の目をしっかりと見て芝居がかった仕草でバカ丁寧に答える。

「いえいえ、是非安心しきって何でも命じてください… 今までもこれからもココロをこめて元首様にお仕えいたします」

小さく笑った元首様が椅子を半回転させ、背を向けながら小さく呟いた。

「ふふふ… そう聞いておこうか、ではよろしく、な」



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