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ミナミヘ セイラ ~第3の眼の覚醒~  作者: 楠本 茶茶(クスモト サティ)
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第23部分 顔つなぎ

第23部分 顔つなぎ


「これは… どうも。あの… ソトベさん、とおっしゃいましたね」

「はい、外辺そとべですが… 、なにか?」

「あ… その、副大臣の御名前… なんとお呼びしたら? 実は大臣の名前さえ知らなくて… その」

「あっはっは、副島そえじま副大臣です。たいてい副大臣なんていう仕事があることさえ御存知ないものですよ。お気になさらず…」

「ああ、恐縮です。ソエジマさんは、あの明治維新のかたと同じ漢字ですか」

「はい、よく御存知ですね、そのとおりです」


 ちなみに明治維新の、というのは副島そえじま 種臣たねおみのことである。大隈重信と同じく葉隠れ思想で有名な肥前(現在の佐賀県)出身で、明治天皇の信任が厚く外交にひいで、侍講や宮中顧問官、枢密顧問官、内務大臣などを歴任した。大久保利通とは隣の敷地に棲み仲も良かった。前原一誠や江藤新平、さらには西郷隆盛とも親しかったというが、この3人は明治新政府にたいしてそれぞれ萩の乱、佐賀の乱、西南の役を引き起こした首謀者でもある。副島がなぜ乱にみせず明治政府の側にいたのか、調べたことはないがちょっと興味があったのでついつい聞いてしまったミナミであった。


 広くもない飛行機の中、副大臣のところにはすぐ着いた。

 まずは副大臣から

「おくつろぎ中お呼び立ていたしまして申し訳ございません。私は外務副大臣の副島でございます」

「ああ、恐縮です。私は南極観測隊員の南戸ミナミヘ 南波ミナミ、こちらが娘の星良セイラです。さ、セイラ、御挨拶なさい」

「はい。都内近衛中学校1年の南戸星良です。よろしくお願いします」

「ああ、はきはきしたお嬢様ですね… お二人は《しれとこ》で被雷して帰国が遅れたとのこと、伺っていますよ。長男のカナタさんがお亡くなりになったとかで、お気の毒でした… 慎んでお悔やみ申し上げます。セイラさんも大部ヒドイ御怪我をなさったとか、大変でしたね。今はどうですか」

答えようとしたセイラを目で制してミナミが言った。

「ありがとうございます。おかげさまでなんとか命は助かりました」

その様子を見た副島は、ああ、そうか、と気付いたようだった。


「お母さん、私は松浦とは学部学科同期で親友なんですよ。だから…」

「ああ、わかりました。もし良ければ私たちの席の方で御話させていただけますか?」

「なるほど… 良いでしょう。では席替えですね」


 母娘が元の席に戻り、ミナミの隣に副島が座った。

「わざわざすみません、まだいろいろと公表したくない事情がありまして…」

「お構いなく… この機内でも本当にスパイが居ないとも限らないですからね、用心は当然ですし、わたしもこの方が気兼ねなく話せる。あなたがたのことはですね、この機内でも単なる《しれとこ》の重傷者ということになってますから。とは言っても、一部にはもうバレちゃっているようですが… 面目ない…」

「まあまあ、それでも御配慮ありがとうございます。もちろん外部には漏らしませんよね、誰も」

「ははは、そういう仕事ですから。では単刀直入に伺います。先日のホテルでの暗殺未遂事件を予言したと松浦将補から聞いています。詳細を教えていただけますか」

「はい、それでは掻い摘んで…」

ときどきセイラに確認を取りながら主にミナミが時間を追って説明した。


「なるほど… 今回は全部当たったけどしかし単なる偶然の可能性もあるというワケですか。しかしそれも当然ですね。今までそういう経験はあったのかな、セイラさん」

「いいえ、ぜんぜん」

「では魚雷のケガ以来そういうことが何回かあったということですね」

「はい。でも外れるかもしれないと思うと、やっぱり怖さはあります」

「なるほど… でもあり得ますね。予言すると味方の動きもそれで変わる。それに相手が対応すると… 未来が変わってもおかしくはない」


「ですから…」

ミナミが口を挟んだ。

「ですからセイラには言ったんです。セイラは見えたままを話してくれれば良いって。その情報を生かすも殺すも外務省や防衛省の責任者だから、そこにセイラが責任を持つ必要なんかない。そもそもセイラは公務員じゃないんだからって」

そう言ってセイラの心の重荷を減らすのがミナミの母としての任務であることが充分わかっていたからだ。


「わかりましたよ、南戸さん。セイラさんは見たままを予言してくれれば良い。おっしゃるとおり、それを生かすも殺すも外務省や防衛省、そして政権の仕事です。そこは安心してください」

「ありがとうございます、副大臣」

「こちらこそ。そこで提案なんですがね南戸さん、連絡先を交換していただけませんか。緊急のときには直接連絡が取れるように、あくまでも緊急用です」

「わかりました」


 セイラが突然言い出した

「あ、ちょっと待ってください」

「まだママにも言ってないんだけど、ここで言ってもいいかな、ママ」

「ええ、良いわよ」

「言い難いんだけどね、すでに一部の職員の電話とかメールは盗聴されてるよ」

「セイラ」

「なんだって?」

思わず副島が殺気立った。


「だから、あくまでも緊急用だし、名前も本名じゃない方が良いと思います。普段の情報交換はメールではしないですよね」

これは副島副大臣に向けて言ったコトバである。


「よく知ってるね。メールとか添付ファイルとかは実は漏れやすいんだ。ウイルスに感染すればあっと言う間に持っていかれるからね。盗聴の件はすぐ調べさせよう」

「外務省はどうしてますか、セキュリティ対策」

「セイラさん、参った、感心しちゃったよ。意外とファックスが良いんだよね」

「そう… だから普段はファクシミリでお願いします。」

「その件は松浦将補にも伝えておくよ」


「そしてあと2つ予言します。私にとっても賭けなんです」

「ほう、なにかな」

「1つは某国の技術の件です。日本でもいくつかの暗号を使い分けていますが、某国の量子コンピュータを使った暗号解読技術はすごい勢いで進歩しています。まもなく解かれると思ってください」


「なんだって! ああ、ゴメン。もう一つはなにかな?」

おもわず殺気だった副島だったが、すぐ冷静に戻った。


「外務省と防衛省そして通商産業省とか国土交通省あたりに、担当省庁にまたがるような類似の照会が来ていませんか? それを調べていただきたいのです」

「それを調べて…どうするの?」

「実は某国の謀略の一環なのです。照会の本文もその返答も暗号通信で送るでしょ? その暗号通信を盗聴する一方で、回答文と照合したら…」

「まずい、暗号が解読できてしまう… しかも量子コンピュータで… か」


「それだけではありません。外務省、防衛省、通商産業省、国土交通省それぞれの暗号変換方式がバレバレになりませんか?」

「そ… そのとおりです」

「だからまず、そういうなにげない同様な照会があるかどうか… 密かに調べる必要がありませんか。そのデータを使って暗号が解かれるのです、たぶん」

「わ… わかりました。必ず、早急に調査いたします」

知らず、コトバ遣いが改まっていた。


「あと… 私たちだけのコードネームを交換しておきましょうか、副大臣さん」

慌てる副大臣にミナミが笑いかけた。

「アタシたちは… 星といってもSTARじゃ見え見えだから火星のMARSマーズにします。マーズは軍神、アノ国と闘うという誓いも込めて」

「おおマーズさん… いいですね。では私は…土星SATURNサタンでお願いします」

「悪魔さんみたいでステキです。某国に対するサタンになってください」


「ではそういうつもりで… 実はわたくし、下の名前がウジサトでして… 古いでしょ」

「あの… 戦国武将の蒲生氏郷がもう うじさとと同じ漢字ですか?」

「はい… そのサトから連想してサタンと。ちょっと【セーラー何とか】みたいですね」

「うふふふ… 悪くないですね」

「気にいっていただけますか」

「もちろんですサタン、よろしくお願いします」

「よろしくお願いいたします。帰ったら早速調べさせます、極力極秘のうちに」

「ええ… たとえ漏れていても、漏れたことがわかっていれば対策は立てられます。是非慎重に対策をなさってください」


「これは… どっちが副大臣かわかりゃしない。本当にありがとうございました」

「そんな… ここからは政治の世界でしょ。よろしくお願いしますね、サタン」

「たしかに… 承りましたよ、マーズ」

副大臣は席を立ち、自身の席に戻っていった。

「それにしてもあの娘は可愛いけど… 指摘は鋭いな、うん。あの額の花は造花だよな…」


小さな呟きが終わるまえに

「副大臣、この件どう思われますか」

心配の絶え間ない日常が彼を待っていた。


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