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ミナミヘ セイラ ~第3の眼の覚醒~  作者: 楠本 茶茶(クスモト サティ)
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第18部分 リハビリ

第18部分 リハビリ


 あれから10日が過ぎた。この頃になるとセイラの回復が著しくなり、額の包帯も間もなくとれそうだった。しかし第3の眼に相当する縫いあとは少女の美肌のなかでは格別に目立つため、「定婚店の故事」にならっていつも造花をあしらったティアラやカチューシャを着けることにした。第3の眼を金属で塞ぐと効果が弱くなるとのミスティのアドバイスに従ったのである。


 定婚店ていこんてんのエピソードは面白い。ただし紹介すると長くなるので、ここでは「結婚する相手はすでに赤い糸で運命的に結ばれていて変えることはできない」という中国の奇譚きたんであるとだけ書いておこう。いわば運命はすでに決定していて変更はできないという説の一つでもある。

 ならば3回も4回も結婚するヒトはどうなってるんじゃと突っ込みたくなるが、ホントのところどうなってるんでしょ?


 寝たきりの日々も近々(ちかぢか)終わりを迎えることになったある日、セイラがこんな「ことを言い出した。


「ねぇママ、どうしてもね、一口だけでいいからポテチ食べたいの」

「ごはん足りなかった?」

「ううん… それもあるけどそうじゃなくてさ、あの味がさ、どうしても… お願い」

「お医者さんに聞いてみなくちゃ」

「ダメっていうに決まってるよ、でしょ? だからお願い、内緒で… ママ持っているでしょ?」

「あら、知ってた… か、そうよね。仕方ないなぁ、一口だけね… 自分で袋を開けるのよ」

「もちろん… さすがありがとう、ママ」


ミナミは意味ありげに笑ってポテチを未開封のままでセイラに渡した。

「やったぁ! ふむっ」

次の瞬間セイラは袋の口を開こうと力を入れたが、袋の口は接着したままでビクともしなかった。

「あれ、おかしいな」

もう一度トライしても結果は同じ、いくら力を入れても袋は開かなかった。


 それを見たミナミはそっとポテチの袋を受け取り、難なく開けて見せた。セイラは呆気に取られてその様子を見ていたが、やがてカラカラと笑い出した。


「やだ… あたしこんなに力が落ちてたんだ」

大好きなポテチの袋を開けることができないことに呆れて、もう笑うしかなかったのだ。

「ふふふふ… ママはそれが… それが言いたかったのね」

「まあね、長期入院してた友達がそうなってたわ… 力自慢だったのにってさ、半ベソかいて」

「ふふふふ、いいわママ、セイラリハビリ頑張るから」

「頑張って、お腹空いて」

「そしたらポテチ買ってね、ママ。あ、でも大丈夫かな?」

「大丈夫って、何が?」

「今思い出したの。だいぶ前にポテチには毒があるって」


「あらセイラ、よく知ってるわね、そんなこと」

「好きだから調べたのよ。たしかなんとかっていうアミノ酸が揚げるときの熱でアクリルアミドになって、それが発ガン性があるとかって」

「そうね、アクリルアミドはいっぱい結合させると水族館の水槽のアクリル樹脂になるアレよ」

「なんだっけ、アミノ酸の名前」

「ヒントあげるわ… 野菜の名前が入ってるわ」

「キャベツ、ニンジン、もっと西洋っぽい野菜だよね。キャベージ、キャロット、キュウカンバー…」

「そこまでメインではないな… もうちょっとマイナーで、北海道が有名な単子葉植物」

「北海道? ジャガイモは双子葉だから… コーン あ、あ、あっわかった アスパラでしょ、アスパラガス」

「おっ、出た出た」

「そうよ、アスパラギンだわ、思い出せた」

「よくぞ… 明日アスまでかかると思ったわ、アスパラギンだけに」

「やだ、オバサンギャグ」

「こらっ! アスパラギンがアクリルアミドになるらしいね。樹脂プラスティックになれば無害なのに、小さい分子のままだと強烈な発ガン性があるんだって」

「やっぱぁ、食べるのやめた方が良いかなぁ」

「あんた…」

表情をやや改めたミナミはセイラの眼を見ていった。


「まさか一袋食べるつもり?」

「まさか… 一口か二口だよ」

「アスパラギンを含む食材はたくさんあるし、それを揚げたり焼いたりしたお料理は限りなくあるわ」

「そっか… 食べすぎなきゃ大丈夫ってことね」

「そうよ… そこまで心配することないわ。まずは自分がシアワセになって、そしたら次にみんなの地球のことを考えましょ。アタシはそれで良いってそう思うの。セイラのシアワセな顔が見たいよ。カナタもそういうに違いない… だな」

「うん」


ミナミは袋ごとのポテチをセイラに渡した。

「ママありがと。でもこんなには食べないけど…」

「ふふふ… セイラの気持ちが分かったから。好きなだけどうぞ」

「ああ、そうやって…  (カリっ)  アタシのせいにするの」

ポテチをかじりながらセイラがちょっとむくれて見せる。

「大丈夫ってわかったから丸投げしたのよ」

「信用してくれたってこと?」

「そんなとこかな、ニュアンスは違うけど…」


4切れを食べ終えたところでセイラはミナミに袋を返した。

「輪ゴム巻いとくから、また食べたいときにどうぞ」

「うん… なんかさぁ、そうだ、PETボトル空のボトルとかある? できれば2本」

「そこにゴミがあるけど… どうしたの?」

「中に水を詰めてさ、ダンベルにしたいの」

「おお、ナイスアイデアだね。いいわ、さっそく作ってあげる」

「わぁ… 仕事早っ あたしリハビリ頑張るから」

「いいわ、なるべき手伝うからね、遠慮なく言ってね」

「うん、ありがと、ママ」


 セイラとしては、たとえ同性と言えども看護師に排泄や洗拭せんしきの介助をされるのは仕方がないけど気が引けたし、導尿管の束縛からも逃れたかった。なにせお年頃だし、このまま退屈なベッド上の生活などまっぴらごめんだった。まずは自力でトイレに行くことを目指してセイラはリハビリを始めた。ベッドの中でも意識して手や足を動かすようになった。いったん体力と気力がついてくれば回復も目覚ましく、すごく頑張れば一人で寝返りを打てることも確認できた。そんな簡単なことが無性に嬉しいセイラだった。


 そんなこんなを含めて母娘は傷の回復を待ちつつもあれやこれやと思い悩む日々が続いた。そしてそのなかでセイラの能力が客観的にも本物だと証明できたときのために「すべての情報がセイラにも届き、セイラの予言が政策等に即刻反映できるシステムの構築」を準備しておく必要があることに気付いた。


 予言など、事が終わった後で判ったとしても、まさに「後の祭り」で何の意味も無いからである。


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