第17部分 返信
第17部分 返信
セイラが言うように昨夜のメールへの返信が届いていた。正確には出したメアドからの返信ではなく、心当たりのないメアドから送信されていたのが不思議だった。しかも日本語で長文だった。
もっと驚くことがあった。
「コニチワ、ミスティとサニサイドです」
に始まり、
「ミナミは船が沈んだ生き残りの日本人のヒトですね」
「長女さんの第3の眼、開いたことがわかりました。喜んでいます」
ミナミが用心して書かなかった情報までもが当たり前のように記されていたからである。多少へんちくりんな日本語ではあるが…
そしてそれ自体が「第3の眼」の能力をまざまざと示しているのだった。
「私タチハ公式ニ動クコトハトテモ難シイノデス」
「イツモ暴漢国ニ監視サレテルト考エラレテイマス」
「ナノデ今回ハアル国カラノシンパノ日本語デキルゲストニ返事渡シテ返信シテモラッテマス」
「ミスティハサニサイドノ代理デス」
つまり直接意思交換するのは危険だということだ。そんな危険をおかして返信をくれたのだ。さらに
「セイラがレベルアップすればサニサイドとテレパシーできるようになる」
とも告げていた。
それは…サニサイドが「王様」であることを示す記述としか思えなかったし、サニサイドの第3の眼はすでにセイラの存在を察知し、テレパシーで繋がることを要求し、そのために早くレベルアップするように求めていると解釈することができた。喜ばしい反面、重い責任に身が引き締まる思いがあった。
すでに第3の眼を持っているので、セイラに格別厳しい制約は課されていなかったが、なるべく食べない方が良いモノの例が挙がっていた。一つにはバラ科植物の未熟な果実と種子… 具体的には、サクランボやリンゴ、ナシ、ウメなどである。これは種子の中に「青酸系の毒素」が含まれていることを体験的に知っていたからだろう。無論成熟した果肉だけなら何の問題もない。他にはツツジの花の蜜、これも青酸系の毒物が薄く混じっているものだ。
そして蜂蜜… ハチミツハニーには、ときとしてボツリヌス菌が創り出す「ボツリヌス毒素」が含まれることがある。ボツリヌス菌は酸素が少ない場所を好むのでハチミツやハムソーセージなどの中で繁殖することがあるが、加熱しても毒性が減じないボツリヌス毒素は第3の眼にとって致命的な打撃を与えるらしい。セイラが大好きなハチミツではあったが、こうなってはもう諦めるしかなかった。
これを気の毒に思ったミナミはさっそく現地の方に「蜜ツボアリ」の調達を願ってなんとか叶えていただいた。蜜ツボアリはオーストラリアの乾燥地帯の地下に巣を作るが、一部の蟻が巣の天井部分にぶら下がり、自らの腹部をはちきれんばかりに大きく膨らませてミツを貯めておくという習性を持っている。この蟻の腹に貯蔵されたミツはとびきり美味だというが… まだベッドから起き上がれなかったセイラはこの蜜を格別に喜んだが、とにかく希少なものであるし乱獲してしまうワケにもいかなかった。
そこで外国のグッズを売っている専門店で「ヘーゼルナッツシロップ」やカナダ特産の「メープルシロップ」を購入して、セイラのパンに塗ったり牛乳に溶かして飲ませるようになった。そして独自の判断ながら、ジャガイモの芽に含まれる「ソラニン」などの毒素をなるべく摂らない食事を意識するようになっていた。
また第3の眼の前には金属があると能力が削がれやすくなるとのアドバイスもあった。もともとヒトのばあいには第3の眼の周囲は頭蓋骨だらけである。骨の主成分は金属そのものではないもののカルシウムの炭酸塩であり、金属の原子が第3の眼に入ろうとする何らかの未知の波動を減衰させてしまうらしい。そういえばダラマ教での「開眼の儀式」には、原始的な麻酔かけて額の骨を抉り取る過程が含まれていたはずだった。
不意にセイラが言った。
「あ、ばぁばだ」
「ばぁば?」
まだ何の前触れもなかった。
数秒経ってミナミのスマホが元気な呼び出し音を奏で始めた。
ミナミは呆れて首を振りながらスマホのロックを解除して電話に出た。
「ああ、ばぁば… どう? 元気?」
「ああ、元気だよぉ。今外に出てきたからなんでも話せるよ」
「いつもありがとうね、ばぁば… で、どうだった?」
「ネットの検証とかなんとかってさ、真っ黒だったよ」
「怪しいのが出てきたの?」
「すぐあとに自衛隊の専門家が来てくれてね、こりゃあかん… だってさ。声に出せないから紙に書いて教えてくれたよ」
「いろいろ入ってたのね」
「マイクとカメラとiOTとかいうやつね。なんとかドアって言ってたけど、なんか勝手にメールを出しちゃうやつらしいって」
「バックドアってやつかな?」
「そうそう、そんなドアだよ」
「ウチを監視する気だったのか、けしからんね、それ… で、どうすることにしたの?」
「やっぱり見られて聞かれてるって薄気味悪いからね… 一月くらいはガマンすることにして、テレビの契約の会社を替える口実で電話とネットとNHKも同時に全部替えたらって教えてもらったからそうすることにしたよ」
「ああ、それがいいわね、じゃぁ… 一月くらいは工作できるってことか」
「工作? 工作なにするの?」
「ああ、独り言よ、なんでもないわ… で、今度はどこの会社にするの?」
「その辺は自衛隊で適当にやってくれるってさ」
「ああ、それで良いわ… ありがとうばぁば」
「いいかねえ」
「上等上等… 助かったわ」
「そうかい… ああ、セイラはどう?」
「今寝てるけど、まあまあ順調かな… もうすぐ起き上がれるよ、たぶんね… ちゃんと歩けるか二人で心配してるよ」
「ひどいケガだったからねぇ… 大丈夫よ、きっと元に戻れるよ」
「ありがとう、ばぁば」
「じゃぁ頼んだよ」
「アイアイサー… じゃぁね。旦那とアンナをよろしくね」
「おう、がってんしょうちのすけ…」
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サティ




