第16部分 ダラマ教
第16部分 ダラマ教
仕方ない… ミナミは決意して、かつてのヒヤラマ国の宗教について調べてみることにした。そう、「第3の眼」についてかつては国家ぐるみで宗教的な儀式を行っていたあのダラマ教のことである。
本当はヒヤラマ国と直接情報のやりとりがする方法が望ましかったが、今はそこを併合した「暴漢国」が徹底的に情報を統制し、インターネットといえども検閲された情報しか出回っていないようだった。巷のウワサやメディアでは「ヒヤラマ民族を根絶やしにするかのような民族浄化が進行中で、逆らうもの、都合の悪いもの、怪しいもの、そして「怪しくないもの」までが偏った教育を飲み込まされ、思想を強要され、収容所に入れられ、拷問され、断種され根絶やしにされようとしているのだと聞いていたが、それを裏付けるようなことしか収集できなかったのだ。
日本語でもある程度の情報は見つかったが、英語のサイトの方が質も情報量も多かった。しかし傾向はここでも同じでオカルトめいた情報は見つかるものの、肝腎の部分については門外不出の「口伝」や一子相伝としてお茶を濁しており、財力ある王室と神官のみで実施しているような秘術は見当たらなかった。ちなみに日本では徳川幕府以来の慣習で長子相伝、つまり長男が家督を相続するのが一般的だが、ヒヤラマ国では末子相伝、つまり末っ子が家督を相続する伝統が残っている。
結局は自力でなんとかするしかない。これがミナミの結論だったが、かといってすべてを諦めたワケでもなかった。
あるとき地味ではあるが偶然に妙に具体的かつリアリティがある割には過大な効果を謳っていない「ミスティ」というサイトに行きあたり、さっそく「お気に入り」に登録しておいた。ブラウザーを閉じ、ベッドに入ってからもなんとなくそのサイトが気になり、転々と寝返りを打っていると、
「ママ、気になってるんでしょ。思い切ってメールしてみたら?」
突然セイラが声を掛けてきたのである。
「あらセイラ… 起こしちゃったかな… ゴメンね」
「うふふふ、ダイジョウブ。それよりね、そこにメールすると、きっと良いことがある気がするよ」
まさか… この娘はアタシのココロを読んだのかしら? ミナミはちょっと惚けてみた
「そこって、どこの?」
「ママが気にしてるとこ。ネットのサイトだよ」
やはり、読まれてる…
嬉しい反面ちょっと困るかも。え、どっちかな… 困る反面嬉しいのかしら?
「あら見てたの、セイラ」
「見たというより感じたの。それ書いてる人ね、亡命してる王様側近の神官だよ」
「え、なんですって? まさかの」
「王様御付きの神官。その人は自分の近くに居るヒトに『王様』と呼びかけてから話してるもん」
「そりゃ聞き捨てならないわ… セイラの言う通りだね。オトコは度胸っていうけど、女も度胸だよね」
ミナミは独り言のように呟くとガサゴソと起きだして電灯を点けた。ダメ元覚悟… セイラは良いことあるって保証してくれたけど、やっぱり度胸は要るわよね… でも思い切って英語の質問メールを送ってみることにしたのだった。
ごく一般の読者を装ってダラマ教の儀式や風習、そして最後に「第3の眼」の真偽について質問を投げかけてみたのである。
「最初はこんなもんかな… 細かいことは仲良くなってからね。なんせあちらも暴漢国に逐われて亡命中だし…」
ミナミはセイラに語り掛けた。返事がわりにセイラは左目でウインクして見せた。その瞳が久しぶりに眼球震顫しているのが見えた。
翌朝… 目が覚めてみたら、なぜかいつになく良い気分のミナミだった。セイラはまだ眠っていたが、ミナミが立てたマグカップの音で起き、もぞもぞと手足を動かし毛布の隙間からミナミを見ていた。
ちょっと眠そうな声で
「おはよ、ママ」
「おはよ、セイラ… よく眠れた?」
「うん… メール来てるよ、たぶん」
「あら… 音は消してるわ」
「でも来てるはずなの」
「えっ、見てみるね」
よく晴れた一日の始まりだった。
ミナミはスマホを掴むと軽やかに操作し始めた。セイラはそんなミナミの背を少し不安そうに見つめている。実は… セイラはメールの内容の予想はついている。むしろ本当にメール返信が来ているかという方に興味があったのだ。
通りの街路樹あたりではマグパイという鳥がさかんに啼いている。現地の方は「羊の鳴き声のような」と形容する「とんでもない美声」だが、ミナミの耳には公園のサビた遊具を無理矢理回しているように聞こえるな妙な鳴き声だった。




