第10部分 松果体
第10部分 松果体
さて、件の「松果体」とは、生理学的にどういう意味を持つ器官であるだろうか。
高校までの「生物」ではその名前さえも見ることはない。大学生でも脳科学とか医学薬学といった系統を学ぶと初めてお目に掛かる部分だと思う。
医学的には視覚に依らずして「光」を感じ、概日リズムに応じて睡眠に深く関わるホルモン「メラトニン」を内分泌する器官という認識だろうか。
視覚に依らず… というのには記憶があいまいながら理由があった。スズメというどこにでもいる鳥は朝も早よから起きて囀りつつ活動し、夜を迎えると寝てしまう。これに別段の不思議はない。しかし「盲目のスズメ」となると話は別だ。盲目なのになぜ夜や朝が判るのか… 頭蓋骨の中に、眼とは別に光を受容する器官があるのではないか?
たしかそんな疑問から松果体の働きが解明されてきたとかなんとか、相当前にそんな話を読んだのだ。
要するに松果体とは体内時計または概日リズムを司る器官なのだ。眼の網膜とは別に頭蓋骨の中で直接光を感じて時刻を知り指令を出して体内のあちこちのバランスを取り協調を促す大切な器官なのである。はっきりとわかっている働きを挙げてみよう
・睡眠に関わるホルモン「メラトニン」を内分泌し、睡眠を促す
・個人差はあるものの、概ね24時間を周期とした活動の自律的サイクルを持つ
・(脳が)明るい環境のもとで活動を始めると、体内時計が「1日の始まり」にリセットされる
・「目」ではロドプシンという物質が光を分解する刺激を視神経に伝えて視覚が成立している。
・「松果体」では松果体特有の「エクソロドプシン」が合成されている。
たとえば
「よし、明日はバス遠足だ。天気はたぶん晴れ。でも集合はいつもより1時間早いから五時半に起きなくちゃ」
そうココロに決めて寝ると、なんとなくその時間に… いやそれより少し前に起きてしまった経験はないだろうか。腹時計… は冗談としても、こうした時間感覚は多くの方備わっているようだ。証拠は持ち合わせていないが、こういった時間感覚にも松果体が深く関わっているのだと考えられている。
ちなみにロドプシンとは眼の網膜で光を感じる「視物質」であり、光を受けるとロドプシンが分解する刺激を細胞が感知して、その情報を脳に送るのである。脳ではそれを「光」として処理を行い、これらまとめて「視覚」を合成しているのだ。「エクソロドプシン」はロドプシンではないが、光を感じる性質は似通っている。さらに余計なことを言うと、ロドプシンが分解すると「オプシン」というタンパク質と「レチナール」という物質になるが、この「レチナール」の元になるのが「ビタミンA」である。
話を戻す… 松果体はこういった特性から、いわゆる「第三の眼」として機能しているらしい。しかし身体の仕組みというものは、ただそれだけで特殊な能力が可能になるといった簡単なものではない。
呪文を唱えたり魔法が使えたり転生したり変身したりといった、超人的というか超科学的なストーリーはいちいち数えられないほど多い。しかしそんなこと現実にできるヒトは70億人を超える人類のうちのおそらく1人もいないではないか… 手品には引っ掛かってもね。
魔人や魔獣についても言いたいことはある。例えば魔獣が棲む領域があるとする。そこに行けば魔獣が棲んでいる… 魔獣を捕まえて、あるいは魔獣の死骸を採取して分類したら、そいつはすでにもう魔獣ではなく、地球の生物の仲間である。
ひとつ例を挙げよう。
「ナニコレ、動物の毛皮にカモのクチバシみたいのがついてるよ。誰? こんなヘンテコな組み合わせでフェイクの毛皮創ったのは… これが魔獣だって言うワケ? オーストラリアがいかに未開の土地でもさ、これはないでしょ、これは… 馬鹿にしないでよね。でもこの毛皮上手にできてるね、縫った痕跡が見当たらないし…」
この一体だけなら、DNAで検査できなかった時代ならばこの毛皮は未知の魔獣のままだろう、おそらく。
しかし実際には「カモノハシ」という動物が棲息していたワケで…
こうなるともう魔獣ではない… ですよね?
「へぇ、子供は卵で産んで、あとは滲み出る体液で育てるんだって? 変わってるね。ところでそれって哺乳類なの? だって哺乳類は卵産まないでしょ、フツー」
「え、それに蹴爪に毒を持ってるんだって? へぇオスだけなんだ… でも犬くらいなら撃退できるなんてなかなかすごいね、やるじゃん」
「まさか、歯が無いなんて… しかも調べてみたら生物が出してる電気を感じて、眼を瞑って水中で昆虫やエビとか捕まえてるって…」
どれもこれも他の哺乳類が持っていない特徴であり、カモノハシという動物は充分に魔獣の要素を満たしていると思う。しかし実際に存在していることによって「単なる風変わりな動物」扱いにされているように見えるのだ。
別の観点から見てみよう。
魔獣が居たとして、その魔獣の寿命はどのくらいだろう。魔獣が一匹だけ居たとしたら、それは「変異体」か、何者かによる「創造」であって、
食う=食料
寝る=棲家
の課題さえ解決できれば生存はしていける。しかし分裂なりクローンなりを作りでもしない限りそいつの寿命の終了=魔獣の消滅、以上終了だ。
魔獣が複数居たとすると、今度は一族の「食う、寝る、エッチ」というなかなか難しい条件が一つ増えることになる。
エッチは魅力的だが… いやいや、ここではそういう話しではない。エッチの意味は快楽ではなく…いやそれもあるが、本来の目的は「遺伝子の組み合わせの改変」である。同じ組み合わせで良いなら、分裂や出芽(分裂と同様だが、分離した個体の遺伝子は同一でも個体の大きさに大小の差がある場合)などで充分だ。遺伝子の組み合わせが同じだと、自分だけの都合で手軽にバンバン増殖できるだろう。しかしひとたび環境が変わり生存が危うくなったときには全個体が共倒れとなって絶滅する可能性を孕んでいる。そして地球の環境は過去に何度も激変してきた証拠が残っている。
では遺伝子の組み合わせを父と母とミックスした「父母とはちょっと違う組み合わせ」にしておけばどうか? 無論さまざまに都合良い個体も悪い個体もできる。ただ環境が変わったときには「誰かが生き残る」ことが期待できる点で優れていると言えるだろう。今は都合が悪い出来損ないに見えたとしても、環境に激変が起きたとしたら…
現在多くの生物が「有性生殖」をすることにもこういった意味があるはずだ。ましてや普通ではない「魔獣」では有性生殖をするのが当たり前だと考えているが、いかがだろうか。
さらにただ単に雄雌が一匹ずつ居れば良いというものではない。そう、近親交配を避ける必要が生じてくるのだ。近親交配では「遺伝子の組み合わせを変える」というそもそもの目的が達成できない。つまり有性生殖をする以上は、同族の数はある程度以上に多い必要があるワケだ。
そもそもその際に必要な化学反応や物質の合成分解、いやそれどころか原子そのものの種類を変える錬金術的な魔法や、そこに供給すべきエネルギーについて根本的な理論や原理についてしっかり述べている作品はひとつもない。それは宇宙大戦争において、彼方の爆発の閃光と同時に爆発音が聞こえたりする科学的矛盾と同様のナンセンスである。地上の花火でさえ、距離があれば閃光に遅れて爆発音が響くではないか。ましてや宇宙では大気という音の媒体がほぼないため、音は伝わらない… つまり爆発音が伝わってくるはずもないのだ。ある映画監督さんは「私の宇宙では光と音が同時に音が伝わるノダ」と嘯いたそうだが…
それはロマンというお約束、飾らずに言えば嘘であって科学的現実ではない。




