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神様のかくれんぼ  作者: 大石 優
第1章 救う神あれば、救われる神あり
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第3話 失恋は再会と共に

「――え!? 氏神って……、神様ってことですか?」


 開いた口が塞がらない。

 言葉の使い方としては正しくないけれど、実際に塞がらないんだから仕方がない。

 頭に思い浮かべただけなのに的確な返答。しかも自分は氏神だという。

 そんな非現実的な出来事を目の当たりにして、あたしは思わず呆けてしまう。

 けれど氏神様は、そんなあたしの反応は想定の範囲内とばかりに、口調を変えることもなく淡々と説明を続けた。


『うん。子供なら僕の姿が見えることもたまにあるけど、大人になっても見える人って滅多にいないんだよ』


 普通に聞けば荒唐無稽な話。でもあたしはそれをあっさりと受け入れた。

 ――当時と変わらぬその姿。

 ――神出鬼没な登場の仕方。

 ――名乗った記憶もないのに、知っていた私の名前。

 ――そしてたった今見透かされた、私の胸の内。

 そんな、普通じゃ考えられない神の御力の数々を見せつけられたら、納得しないわけにはいかない。むしろ今までの疑問が一気に解消した瞬間だった。


「神様って、もっと白髪の老人かと思ってました」


 思わず口から出てしまった失礼な言葉。

 けれど氏神様は腹を立てることもなく、微笑みながらそれに答える。


『僕たちに決まった姿はないんだよ。見た人の印象で決まるんだ。君の場合は、十二年前に助けて欲しいって願った時に思い描いたのが、この姿だったんだろうね』

「え……。でも……」

『神なら老人のはずだって君が認識を変えたら、この姿も白髪の老人になっちゃうかもね。フフフ……』


 そう言って氏神様が、手で口を隠しながら笑った途端のことだった。

 大学生風のカジュアルだった彼の洋服が、一瞬にして神主のような服装に。きっとあたしのイメージが、氏神様の姿を変えてしまったに違いない。


(ダメ! 消えるのよ! 神様イコール白髪の老人のイメージ!)


 慌てて振り払う従来のイメージ。一生の思い出になりかねない初恋の相手が、白髪の老人に代わってしまってはたまらない。

 神様とはこれが本来の姿なんだと、あたしは暗示をかけるように自分の中のイメージを必死に上書きした。


 初恋の相手と再会して、交わした言葉は驚きの連続。思いも寄らない言葉を聞く度に、あたしは胸よりも頭をかき乱された。

 けれどそれも言葉を止めてしばしの集中をしたせいか、ようやく少し冷静になる。


「でもそうでしたか、神様だったんですね……。十二年前、一夜明けたら母の機嫌が直っていて、父とも仲直りしてくれました。あれは神様のお陰だったんですね。あの時は、本当にありがとうございました」

『いやいや、僕は何もしてないよ。あれは君の思いが、お母さんに通じたんだよ』


 あたしはやっと、大恩人へ感謝の言葉を伝えることができた。

 だけど同時に知らされたのは、初恋の相手が実は氏神様だったという衝撃の事実。ついさっき再燃したあたしの恋も、初恋とまとめて一緒に無残に砕け散った。


(相手が神様だったなんて、あたしの恋は最初から実らないことが確定してたんじゃないの……)


 泣き出したいぐらいの気持ちをぐっとこらえて、あたしは作り笑顔で取り繕う。


「いえ、あれはやっぱり神様のお陰です。あのアドバイスがあったからこそ、あたしは母に気持ちを伝えられたんです。どうもありがとうございました」


 あたしは深々と頭を下げて、改めて氏神様にお礼の言葉を伝える。

 顔を上げると氏神様は満足そうな笑顔で、二度三度と頷いて見せた。


『これからもみんな仲良くね。陰ながら幸せを祈ってるよ』


 手を振って見送る氏神様。

 あたしはどうにもならない恋と氏神様に別れを告げ、神社を後にする。

 大きくため息をつきながら見上げると、空は赤みがかった夕暮れ。カラスの鳴き声が、心に空しく響く。


(さようなら、あたしの初恋と二度目の恋……。はぁ、家に帰ったらおばあちゃんの説得しなきゃ……)


 うなだれながら、帰途に就くあたし。

 重い足取りで参道を、とぼとぼと進む。

 そんな打ちひしがれるあたしに背後から、氏神様の大きな声が掛かった。


『君のもう一つの秘めた想いは、聞き届けてあげられなくてごめんよー』


(秘めた想い……?)


 ふと足を止めて、振り返りながら考えを巡らす。そして一瞬の後に、顔が一気に紅潮した。

 相手が神様ということは、あたしの考えていることは全てお見通しのはず……。


「――ちょ、ちょっと……。あたしの心を読まないでよー!」


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