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失敗を見せることは幸せを実感させる
失敗を見せることは幸せを実感させるが、成功を見せることは不幸を実感させる。
芸術であれ何であれ、作者が失敗や挫折を表現して見せれば、観客は自分の幸せを実感できるでしょう。一方成功を見せられれば、成功していない自分が不幸だと思うでしょう。
芸術家の中には、ピカソなど成功してもよい芸術を送り出している人もいます。彼の作品をみて、自分が不幸に感じることはないでしょう。では、なぜなのか。それは作品に彼の成功が反映されていないからです。
たとえば、彼の代表作であるゲルニカ。そこには、人生の成功は表現されていません。むしろ、戦争による迫害という彼にとっての不幸が表現されています。
モーツアルトにしろベートーベンにしろ、われわれから見たら人生の成功者です。しかし、彼等の作品を通し見えるのは人生の落伍者です。幸せから不幸へ、不幸から幸せへとめまぐるしく変わります。
それは単にあざ笑うためではありません。客の心を開放すること。観客の心を世の中のしがらみから一時的であれ開放することができて初めて芸術と評されるのでないでしょうか。