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005

「もう大丈夫だ、問題ない」


 サタニアの方を見てそう口にした。

 今はこんな奴のことは放って置いて情報を集めよう。

 俺はそのまま厨房に足を進めた。

 しかし何故かサタニアも俺の後を着いてくる。

 煩わしい……。


「どこに行かれるのです?」


「書庫に行く」


「そんな所になんの用が?」


「お前には関係ないっ!」


 妹に向けて怒声を放つ。

 声は広い廊下に良く響き、サタニアの身体をビクつかせた。

 少女の顔は今にも泣き出しそうな表情を写している。

 その顔を見て俺も冷静に返った。そして自分でも何故そんな大声を出したのか困惑していた。

 そもそも俺は何故あんなにも苛立っていた?

 サタニアに馬鹿にされたから?

 いや違う、俺はサタニアに声を掛けられた時から苛立っていた。

 ゼブルは元々サタニアに対して嫌悪感を持っていたということか?


「……お邪魔して、すみませんでした」


 サタニアは深く頭を下げて顔を見せないように、進んでいた方とは逆方向に歩き始めた。

 一瞬だけ見えた瞳には涙を浮かべていた。

 その涙は俺の心に深く爪を立てた。


「待て、サタニア!」


 気がつくと俺は名前を呼んでその足を止めさせていた。

 サタニアは振り返らずに言葉だけで返事をする。


「……まだ何か言いたりないことがおありですか?」


「いやその、大声を出して……すまなかった」


 サタニアは急に振り返り、目の端に涙を残したままにその瞳を大きくして、キョトンとした表情を見せていた。

 まるで初めて見る珍しい動物でも観察しているような視線だ。


「な、なんだ?」


「あ、その、お兄様が謝るなんて、初めてだったので……」


 そうだっただろうか?

 確かに思い返してみるとそういう記憶はない。

 そもそもサタニアに関する記憶がほとんどない。

 別に記憶が消えているという訳ではなく、ゼブルはほとんどサタニアと接していない。

 しかしそれはあまり望ましいことではない。

 サタニアはこの世界に取っての災厄になるかもしれないのだ。

 であるならサタニアの情報は出来るだけ多くあることが望ましい。

 それは今後に大きく関わってくる重要案件だ。

 ならばサタニアと時間を共有し彼女自身のことを良く知るべきである。


「……お前も、書庫に行くか?」


「え、なんでそんな所……あっ!」


 言い掛けた言葉を両手で口をふさいで止める。

 先ほど怒鳴られた時と同じことを言おうとしたことに気がついたからだろう。

 その姿は普通の可愛らしい女の子以外の何者でもなかった。

 あの極悪令嬢にもこんな時代があったのか……。

 ゲームの中では容姿以外に一つも良いところが思い浮かばないくらいだったのだが、今ならまだそれほどまでに手遅れということはないのかもしれない。


「書庫で調べたいことがあるんだ。で、お前はどうする? 一緒に行くか?」


「あんなカビ臭いところに行くのは気が進みませんわ」


 まあそうだろうな。サタニアならそういうことを言うだろうことは予想していた。仕方がない、また別の時に他の方法でーー


「……ですが、時間をもて余しておりますから。ここはゼブルお兄様のお顔を立ててお付き合い致しますわ」


 普通に「着いて行く」とだけ言えないのかこいつは。ツンデレか?

 だがあのサタニアにしては可愛げがあると言える。今はこれで我慢するか。


「何か、失礼なことを考えてませんか?」


「いや別に。行くぞ」


 最初の予定通り一度、厨房に顔を出し書庫へ向かうことを伝える。

 厨房の連中は「大丈夫なんですか!」「まだ寝ていたほうが!」等と言っていたが適当に返事をしてその場を後にした。

 そして書庫で書物を漁る。

 剣術書、戦術書、医学書、文学書と哲学書。今必要なものが見つからない。

 ようやく歴史書のようなものを見つけたが『カレカレ』とは全く関係のない歴史が載っており、それほど有益な情報は載っていない。

 当てが外れた。大ハズレだ。

 思っていた以上に欲していた情報が少なかった。

 無駄足と、言うほどではないが十分な情報量ではなかった。

 さてどうしたものかと調べ終えた本棚を見渡したところで着いてきたサタニアの姿が目に入った。

 サタニアは文学書が置いてあった木箱の上に座って足をぶらつかせながらそこに置かれていた本を読んでいる。

 その本は俺もパラパラッとめくりはしたがとても10才の子供が読んで楽しいような内容ではなかったと思うのだが。


「……それ面白いか?」


「それなりには」


 そういえばゲームの中のサタニアは天才などと呼ばれていた。

 兄のゼブルは『剣の天才』、妹のサタニアは『魔導の天才』。

 サタニアに関しては魔法を含めた学術面に置いて突出した才能があった。

 しかし主人公の『全属性魔法の使用が可能』という他の者には無い能力があることが解ると主人公を目の敵にし嫌がらせを始めた。

 ゲームではそうだった。

 しかし今はそれは関係ない、俺がこれからどうするかを考えることが先決だ。

 それほど期待していた訳ではなかったが、思っていた以上に情報が少なかった。

 だがなかったものは致し方ない、まずはまた状況を整理しよう。

 あれから増えた情報といえば、部分的な地図や本に載っていた複数の地名。俺の知っている『カレカレ』の地名と一致する場所もあるため、ここがあの『カレカレ』の世界と同じ世界である可能性は高いと思われる。

 だが書庫の書物で確認出来たのはそれだけ。俺が知りたかったのは俺の知る『カレカレ』と『完全に同一の世界』であるか、だ。

 他には、サタニアのことか。

 現在のサタニアはゲームの中のサタニアほどは歪んでいないようだ。

 性格に多少難はありそうだが、それでもゲームのサタニアに比べれば可愛いものだ。

 ならばサタニアはこれからの五年間で変わっていくこととなる。

 それを止めることが出来ればサタニアがラスボスになることも、主人公達の邪魔をすることもなくなるかもしれない。

 ただサタニアの過去に関しての情報はゲーム内ではほとんど開示されていなかった。

 何が彼女を歪めたのか、どうしてそうなったのかはゲーム中ではほとんど語られていないのだ。

 なので何がどうしてああなったのかは不明。今現在において明確な策を取ることは出来ない。

 一先ずは友好的な人間関係を築くことから始めよう。

 ゲームのゼブルとサタニアの関係は兄妹であるものの二人の間にはまるでそれらしい人間関係はなかったと言える。

 ゼブルは『幼い頃から歪んだ性格をし、何度か忠告したがまるで聞く耳を持たず、気がつくと悪魔のような女になっていた』とゲームで言っていた。

 だが今のサタニアは多少はひねくれてはいるがそれほど歪んだ人格であるようには見えない。

 あちらの世界の記憶を持っていない頃のゼブルはそう感じていたと言うことか?

 思い出せ、ゼブルの感覚、意識、記憶を。

 ……これは嫌悪感? 先程の苛立ちもそのせいか? 何故だ?

 確かにゼブルとサタニアは最終的には敵対することになったがそれまでは『対立』はしていなかったはずだ。

 ゲームの中では主人公にサタニアとの表面的な兄妹関係を指摘されたことにより、サタニアとの関係を深めようとしたがそれをサタニアに利用され主人公共々、罠に掛けられてしまう。

 それからなんとか罠を抜けた後に主人公と共にサタニアと敵対することになるのだ。

 だが今はーー

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