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002

「そういや、どのルートでもラスボスは同じなのか?」


「ええ、そうですよ。どのルートであってもラスボスが『サタニア』であるのは代わりありません」


 このゲームのラスボスである『サタニア』。

 このキャラは序盤から登場し、何かと主人公に絡んで来て悪態をつき邪魔をする、俗に言う悪役令嬢だ。

 どうやらどのルートであってもそれは変わらないらしい。

 俺とコイツの推しであるゼブルの妹でもある。


「結局、サタニアがなんであんなことをしたのかっていう説明とかはなかったな」


「そうですねぇ、どのルートでも彼女を養護するようなところは無かったんですよねぇ」


「おい、ネタバレやめろよ。そういうのを探すのも周回プレイの醍醐味だろ」


「先輩が話始めたことじゃないですか……。けどどう考えてもサタニアは『悪』でしょ? ネットとかでも考察されたりしてますけど結局は自己中で我儘、独裁思考の悪役令嬢って意見がほとんどです」


「まあ、そうなんだけどな……」


「なんだか気になる言い方をしますね」


「いや、自分でもよく解らないんだけどな。それだけじゃないんじゃないかっていうか……」


「……先輩、さては『悪魔主義者』ですね」


「は?」


「サタニアって悪役でラスボスなのにルックスは抜群にいいじゃないですか、しかも勉強もトップクラスらしいし、ラスボスになるくらい強い!」


「まぁ、そうだな」


「このゲーム、先輩がハマったように男性ファンも結構いるんです。それで少なからずいるサタニアファンのことをそう言うんです」


「そうなのか。で、俺もそのサタニア派だと。なんで『悪魔主義者』なんだ?」


「サタニアって本当にルックスだけで中身はクソクズビッチじゃないですか」


「あ、うん、わかった。わかったからクソとか言うなよ」


「先輩、趣味悪いですね。見た目が良ければなんでもいいんですか? 胸ですか、巨乳でキレカワで妖しい雰囲気のある女王様みたいな女が好みなんですか!」


「おい、勝手に人をその悪魔主義者に仕立て上げるな。俺は少し気になるって言っただけだろ? それに何故キレる?」


「キレてませんよ!」


 キレてるだろ。それに巨乳っていうならお前も充分ーー、あ、今の無しで。 


「じゃあ、先輩はやっぱりゼブル様ルートしかクリアしていないんですね」


「ああ、二周目は別のキャラにしようと思っていたのだが、気が付くとゼブルルートに入ってしまっていた……」


 流石は俺の親友。俺の心を掴んで離しやがらねえぜ!


「そうなんですね。それじゃあ隠しキャラがいるのは知ってますか?」


「おい、マジか。どうやって出すんだよ」


「それじゃ仕事終わったらウチに来ます? 私、メチャクチャやり込んでるので隠しキャラだけじゃなくて、隠しダンジョンとか隠しイベントも完全に把握していますよ」


「おお、行く行く。明日は休みだから深夜までカレカレ祭りだな」


「「おー!」」


「お客様、もう一度うるさかったら出禁にしますよ、コンチクショウ」


「「すみませんでした!」」


ーーそうして今に至る。

 ノリであんなことを言うものではない。

 この部屋に入ってから二人ともほとんど会話をしていない。

 座り込んでからどれだけ時間が流れたのだろうか。


「そ、そろそろカレカレやるか」


「そ、そうですね。今、ゲームを準備します」


 落ち着け俺。

 別に女の部屋に入るのが初めてという訳でもないだろ。

 ただゲームを一緒にするだけだ。

 これまでだって二人で遊んだりしていたんだ。

 なんてことはない。

 ふと、ゲームのコードを繋いでいる後輩の方に目を向ける。

 一瞬目が合った。

 すると彼女は顔を赤くして、再び作業を続ける。


「あれ? これどこに繋ぐんだっけ、こっち? 違う、こっち! あれ? あれぇ!?」


 いつもやっていることだろ!

 やめろ、動揺するな。そんなところを見せるな!


「……ちょっとトイレ借りるわ」


「あ、はい。そこの扉です」


「了解」


 扉の先には浴室とトイレに繋がる洗面所。

 俺はトイレには入らず洗面台で顔を洗った。

 意識するな。アイツだってそんなつもりで家に呼んだ訳ではない。

 そもそも俺はアイツにどういう感情を持っているか解っていない。

 ……いや、それは嘘だ。

 大体、「恋心か、友情か」だなんて考えている時点で異性として見ていることに他ならない。

 だが俺はこの関係をまだ崩したくないとも思っている。

 これも本心だ。

 とにかく今日は遊びに来ただけ、それだけだ。

 それ以上も以下もない。

 よしっ!

 バシッと音を立てて両頬を叩き気合いを入れ、洗面所の外に足を向けた。


「キャーッ! ゼブル様、尊い! 尊過ぎるぅ!」


 部屋に戻るとアイツはテーブルに前のめりになって尻を振りながらゲームをしていた。

 帰った時にこいつは部屋着に着替えてスカートを履いている。

 見えるか見えないかの絶妙なスカートの揺れ具合。

 うん、お前、ふざけんなよ。尻を振るな、尻を。

 ハッ! いかん。冷静にだ。冷静に対処するんだ。


「おい、近所迷惑になるから奇声を上げるのをやめろ」


「あ、すみません、つい」


 そう言ってテーブルから身を起こし普通に腰を落として座った。

 これで俺も後輩の尻をいきなり鷲掴みせずにすんだ。

 最悪、警察沙汰にもなりかねない。

 助かったな。色んな意味で色んな方面に。


「隠し要素の出し方を教えてくれるんじゃなかったのか? なんでお前がゲームをしてるんだ」


「い、いえ、隠しイベントの説明からと思って手前のところまで進めておこうと思ったら止まらなくなっちゃってぇ」


「まったく……」


 それからは隠し要素の出し方を教えて貰いつつ、ゲームのことで話に花を咲かせた。

 大丈夫、普段通りやれている。やっぱりコイツと一緒にこういうことをするのは楽しい。無邪気に、本心でそう思える。

 気が付くと時間はすでに深夜を回っていた。


「あ……やべ、電車なくなってる」


 マズったな。

 時間を忘れてゲームと話しに熱中になり過ぎて終電を逃してしまった。

 まぁ、幸いタクシーでもそれほど距離があるわけではないしーー


「それじゃあ、泊まって行きますか?」


「は……?」


「予備の布団がもうひとつあるので大丈夫ですよ」


 いやいやいやいや。

 全然大丈夫じゃないから。

 こいつ、男を家に泊める意味解ってるのか?


「あ、でも歯ブラシとかはないので買いに行かないと」


 うん、そういう話じゃないんだけどね。

 勝手に安心されても困るんですけどね。

 俺、全然自分を抑えられる自信ないんですけどね。


「それじゃコンビニに買いに行って来ますね。ついでに何か食べ物も買ってきますよ」


「あ、じゃあ俺も一緒に行くよ」


「え、あ……そう……ですか」


 よく見るとほのかに顔が赤い。

 なんとも形容しがたい、複雑な表情。

 それでも一番近いのは、恥じらいというところだろうか。

 多分、彼女はちゃんと解っているのだろう。

 男を家に呼ぶ意味も。男を家に泊める意味も。

 俺が人畜無害な紳士ではないことも。

 前に聞いた話だと彼女はまだ男と付き合ったことがないらしい。

 高校も大学も女子校で、それほど男っ気のある知り合いもいなかったそうだ。

 だとするなら、これは彼女にとって相当な勇気を出しての行動だったのではないだろうか。

 俺は彼女のその勇気に、何らかの答えを出すべきなのだろう。

 もちろん全部俺の自分に都合のいい解釈なのかもしれない。

 それは本当はコイツが望むことではないのかもしれない。

 しかし俺は自分の気持ちを知ってしまった。

 この状況になった以上、俺はそれを伝えなくてはならない。

 それなのに俺の覚悟が決まらない。

 俺の方は女と付き合うのは初めてでもないはずなのに、こんな感情は初めてだった。

 だから言葉が口に出ない。失ってしまうかもしれないことを恐れているのだ。

 それでも逃げることは許されない。

 あとは俺がどこのタイミングで勇気を出すか。

 コンビニに行った帰り道? それとも家に戻ってから?

 部屋を出て、近くにあるコンビニに向かう。

 コンビニの場所は知らないので少し後ろから付いていく。

 アパートの周辺はアパートに設置された灯りと街灯で以外と明るかった。

 まだ少しだけ考える時間はある。それまでに答えを……ん?

 アパートの階段を下りたところで人影を目にする。

 それはこちらに近付いてきた。


「お前の知り合いか?」


「ああ、隣の部屋の人ですね」


「……そうか」


 男に向かってアイツが軽く会釈する。

 俺もアイツに習って軽く会釈してすれ違った。

 しかし、こんな時間に帰宅とは、もし仕事帰りだったとするなら随分と仕事熱心な奴だ。


「おい」


 反射的に声のした方に振り返る。

 すると突然、あの男が飛び込んできた。

 突然のことに男の身体を受け止められず、バランスを崩し後ろ向きに倒れ込んだ。

 なんなんだこの男、急に突き飛ばすなんて。

 何かヤバそうな奴だ。

 何が気に触ったのか知らないが今はアイツも一緒だ。

 あまり刺激しないようにこの場を立ち去ろう。

 そう思ったが、おかしい。

 身体を動かそうとすると激痛が走る。

 その痛みは腹の辺りから来ているようだ。

 痛みの走る場所に目を向けるとそこからは見たこともないほどの血液が流れ出ていた。


「どうしたんですか、先輩? ……うそ」

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