第五話 幽霊生活
いやあ、最高ですなあ。
死んで肉体にこだわらないような存在になってから、その自由さを思い切り味わっていた。なんせ空も飛べるし樹々や石などの物体を抵抗も受けずにすり抜けられる。森の中を走り回るだけで開放感がある。
寒くもないし、熱くもないのだ。だけど、温かい日差しを浴びれば心地よさはあった。不思議なものだ。
なにより誰かから脅かされえる心配がないのが一番いい。もう、リンチもされないし誰もぼくを見つけることは出来ないだろう。どうもぼくは生物から認知されないみたいなのだ。
実験はしてみた。鳥の目の前に進みアピールしたことがある。手を広げても(といっても以前のような人間の手ではない。泉の反射で確認したところ、今のぼくは真っ白なやや楕円の球体で、そこにぴょこっと手らしきものがついているだけだった。それを手、と呼んでいる。足はない。我ながらユーモラスな外見だった)鳥はそのまま枝に留まって反応しなかった。
自由だ。ぼくは。少し、さびしいけれど。
ただ、そんな生活も十日もすれば日常になってくる。日向ぼっこは気持ちいいものの何か楽しいことはないかな、とぼくは森をうろうろ歩き回っていた。
そうそう、元の体だけれども残念ながら腐ってきてしまっている。洞窟に隠しておいたのだけれども、虫がたかり風化も始まって生きている人間とは思えない姿になっていた。自分が腐るのを見たのは人類史上ぼくが初めてではないか。体験するもんじゃないねえ。
今は洞窟をお墓(うーん、どういうのが適切なのだろう。)がわりにして埋葬したのだった。洞窟といっても立派なものじゃない。全て天井も地面も側面も、土でできていたから数年もせずに洞窟自体が潰れるようなものだ。お墓には、丁度いい。
森のなかをさんざん動き回ったせいか、拠点にしている泉のまわりはもう見知った場所ばかりだった。
どうしようかなあ、そろそろ別の土地に移ろうかなあ、と思っていたところで珍しい色合いが目に入ってくる。
森のなかなんて大抵みどりを基調とした単調な色合いの繰り返しなのだけれど、赤い色は珍しい。なんだろう? と思い近づいた。
果実だ。キイチゴが実っていた。まだ緑色の熟していないものもあるけれど、すでに赤々としたのも多かった。
ちょっと、気になりだしてきた。食べられるのだろうか? と。お腹は減っていない。減らないのだ。そもそもこの体だと味は感じられるのか? この幽霊の体のままで物理的な存在に触れられるのだろうか? そんな疑問がわいてきたのだ。
なにもしなければ一切の干渉は受けない。樹々をすり抜けて通れるのだ。それは分かっていた。では意識して介入しようとしたらどうなるのだろう。
キイチゴを触ろうとしてみる。そお~と手をだした。失敗! 無理なのかもしれない。だけど、日差しは感じるんだ。何かしらの影響がこの体でも起きるのだから、その逆もありうるのでは? と推測している。
なによりキイチゴを食べたくなってきた。平和だけど刺激が少し足りない日々で、こんな遊びをしてみてもいい。そうやって何度も試していた。
う~~~ん、できない! ふう、ちょっと汗ばんできたなあ。
え、この体で?
ポーンという音がなる。そして、ポップアップが現れた。
ちょっと主人公のフォルムが分かりづらいと思うんですが、一応シートをかぶって「おばけだぞぉ~」と扮装するあの感じの姿だと思っていただければなと。もっとオリジナリティを出したかったのですが、分かりにくくなってしまいました。