第四話 受容
幽霊の身体のままじたばたしてみるも、あとの祭りってやつだ。もう死んじゃったのだ、生き返れない……なんてしょぼんとしていると、いや、六道無体の説明文に憑依とかいう能力書いてあったとすぐに思い出し、では自分の身体に使ってみたら? との考えが浮かんできた。
失敗しても不利益はない(ちょっとへこむけど)ので、いざ挑戦だ。自分の体からは少し離れているので、ひゅ~と近づいていく。初めてなのに意外と飛ぶのうまいな、なんていい気になりながらぴとっと霊体の自分をくっつけてみた。
なにも起きない。あれ? おかしいなあ、と思い手でつり下がっている肉体を押そうとするとそのまま自分の手が中へ入っていく。そうだね、幽霊なんだから身体くらい通過できるんだ、と新しい自分を発見しながら今度はくっつくのではなく入ってみようと試してみた。
動かせた。いまや視界は天地が逆転しつり下がった状態で世界を見ている。
痛みはない、もはや今までの身体は着ぐるみのようであった。
お腹にぐっさりと棒が突き刺さっているがなんともない。まるで着ぐるみの部分に針を通したように、自分には一切届いていない感触だ。
手足も不自由なく動かせる。よし、じゃあさっさと縄をほどこうともがいてみる。しかし別に握力などが強化されたわけではなく、自分の腕力では固くしばられた縄を足首から(ぼくは逆さづりにつるされているのだ)解くことができなかった。
それに腹の棒も邪魔だ。えい、と抜くと(この時のずぶずぶと体の中を棒がぬけていく感触が気持ち悪い。痛みがないのが救いだよ)穂先が付いているのに気が付いた。棒ではなく、槍だった。運がいい(死んでるけど)、この穂先を使って縄を切ることにした。
粗末な槍だ、それにもともと槍は突くために作られている。のこぎりのように押し引きしてもちっとも切れなかった。そこで木にくくられている部分を突いてちぎろうと思い立つ。
これが正解だった、何度もついて縄の一部分を弱めると自重に引っ張られてぶちぶちと裂け、縛られている木から解放されることに。でも着地には失敗だ、頭から落ちた。
「いてっ!」
反射的にそう叫んだ。でも、痛みは本当はまったくない。便利な体になったなあ……。
死の危険からは脱したものの、これからどうしたものか悩む。町にはもちろん帰れない。もともと追い出された身だし、血だらけだ。こんな姿で戻ったらすぐに怪しまれる。
それに、あの青年たちと出くわしたらさらに面倒だ。死んだはずのぼくが生きているのだ、それこそ魔王とやらの一味にされてしまうだろう。
だから、森の中を進むことにした。茂みだらけで歩くのも面倒だ、だけど、ここなら人が居なくて安心だろう。この体なら冷たさも熱さも平気だった。さきほどから動き回っても汗をかかないからそう推測できる。縄と格闘していたときには息は上がっていなかった。
疲れない身体になった、ということだろう。これもぼくをほっとさせた。
前の世界では、日本では安月給で働いてばかりだった。疲れて帰り寝るだけの毎日で、だからといって上等な職業ってわけでもない。
これで、開放された。
雨が降っている。ぼくは大木に寄りかかって雨宿りしながら降雨の中を過ごしている。退屈な毎日が来るのかもしれない。でも、もう脅かされることもない。案外、理想の生活が手に入ったのかもしれない。
改行て難しいですね。まだまだコツをつかめていません。