第三話 追放
異世界にも論理学(?)はあるらしい。ぼくの訴えどおりになった。魔王の手先だと、証明は出来ない。しかし、勇者でもないものを王宮に、王都に居座らせるわけにもいかない、とのことで王都の城壁外への追放刑となったのだ。
ぼくは魔王の干渉か、はたまた古代の術を完全には成功できなかったために生まれた夾雑物という扱いになった。どちらにしろ、とにかく追い出されたのだ。
王からの慈悲、ということで粗末な衣服だけはもらえた。本当に簡素なつくりだ。靴はない。はだしである。
城壁外でぼくは呆然としていた。どうやって生活すればいいんだ? 服1枚、お金なし。ツテもなし。まず、今日をどうやって乗り越えよう、と暗澹たる気持ちでいると、近くで声がした。
「おお、いたいた」
「あいつだよ」
複数の男たちだ。歳は若い。20歳前後だろうか。
「あんた、王様に呼ばれてきた異世界の人間なんだろ?」
「そう、だよ」
にこりと青年は笑っている。肩にはスコップをかついでいた。
「でも、どうして追い出されたんだい?」
「偽者、らしいんだ。確かにぼくが本物の勇者とは思えないけど……」
「へえ。じゃあ、行くところないのか?」
「うん」
「じゃあ、うちで働かないか? 農場をやってるもんだ、オレは。人手がいるんでね」
「本当かい? いくよ」
肉体労働はしたくない。得意でもない。しかし、他に選択肢はなさそうだった。生き延びるためだ、ひとまず厄介になろう。そう思って青年らに案内されるまま、ついて行ったのが間違いだった。
人気のない林に連れてこられたぼくは、リンチを受けた。
「魔王の手先が! 吐け!」
そういって彼らの一人がぼくを殴って来る。顔面に思い切り拳がめり込んできて、鼻からは血がだらだらと流れ落ちてくる。呼吸もしずらい。そして恐怖感がぼくを一瞬でつつんだ。
「お前らのせいで、兄貴は死んだんだ。まだ22だったんだぞ。嫁もいたんだ、よくも、よくもやってくれたな」
血走った目で青年はぼくの胸倉をつかんで強制的に立たせてくる。違う、と否定しても応じようとはしない。その代わりに拳と蹴りが飛んでくるだけであった。
「はけ! どういう任務を帯びているんだ!」
「このクソ野郎!」
地面にうずくまったぼくを殴る蹴るの連続で痛めつけた。ぼくは、正気ではいられなかった。懇願と悲鳴をあげてとにかくやめてくれと頼むのが精一杯だった。
それも長くは続かない。思い切り頭を蹴り上げられ、意識を失ったのだ。
その後は、とても奇妙な体験が、ぼくを待っていた。
ぼくは今、片目がつぶれて、腹に長い棒のようなものを突き刺さられながら、逆さに木につられている。血が大量に流れだし、地面に落ちて真っ赤なシミを大地につくっていた。
目は開いている。瞳孔もだ。息はしていない。つまり、死んでいるのだ。
それを、ぼくが、見ていた。
幽霊になってしまったのだ。自分の死体を見る、という経験をしてしまっている。こんな時には感情は動かない。現実感が無さ過ぎるからだ。
「おわっ!?」
それとぼくを驚かせることがもう一つあった。目の前にステータス画面がポップアップしてきたのだ。
ニシ・ユタカ
HP 1/0
MP 1/0
STR 1/0 CON 1/0 POW 1/0 DEX 1/0 SIZ 1/0 INT 1/0
こんな情報が薄青いフレームに囲まれて飛び込んで来た。ぼくもゲームは好きだしRPGくらいプレイしたことはある。だから各項目の意味は分かっていたけれど、数値がバグっているのにもすぐに気が付ける。これは一体、どう理解すればいいのだろう?
べつのポップアップもあった。
そこには、“六道無体 発動”と書かれてある。どんな能力なのだろう、と注視していると下部にフレームが伸び、説明文が追加された。
この能力は身体と魂を分離して、その魂魄だけで活動できる能力です。直接魔力を吸収することで効率的に自身のエネルギーを補給することが可能であり、また、“憑依”のスキルで意識のない物体に入り込んで操作することも可能になっています。
ほ、ほお~……。特殊能力、てやつなのか……。ぼくに、こんな能力があるとは知らなかった……。じゃあ、勇者召喚の術で呼び出されたのは理由があってのことだったのか……。
じゃあ死に損じゃん! 追放され損じゃん!
もっとうまく書きたいですねえ。