第二話 急転
王様は語る。
「この術を使えば、魔王に対抗できる能力を持った才能ある者、つまり勇者を呼び寄せることが出来るのだ。そして、君たちを呼び出したのだ……」
そこまで聞いて、え、ええ? ぼく、勇者なの? と別の困惑が湧き起こっていた。ぼくは言ってもただの日本人に過ぎない。大学を出て数年社会人生活を送っていた、元サラリーマンだ。元、というのは会社がつぶれたからだ。
そう、ぼくについて少し語っておこうか。といっても今さっき言ったように、大した経歴は、ない。ニシ・ユタカという男さ。歳は、今年で27、かな……。異世界に来たらしいからどう数えたらいいか、分からなくなるかもしれないけど。
とにかく、王様はぼくを勇者として呼び出したらしい。他の六人もそうなのだろう。だが、そこが問題だったのだ。
「本来召喚した勇者は、一人、だったのだ。しかし、七人もいる。これに我々は戸惑っている」
「じゃあ、残りの六人は偽者ってことか?」
女性が問いただした。
「うむ……。断定はできないが、魔王の介入があった、と目されている。術自体の邪魔は出来ないが、干渉してくるのではと魔術師の間では議論されていたらしいのだ。攪乱するために偽者を送って来るのでは、と。そしてその言葉通りになった、というわけだ」
「ちょっとまてよ! じゃあ、なにか、あたしらは魔王の使いだと思われて今から6人殺されるってわけかい! 冗談じゃないよ!」
赤毛の女性が啖呵を切った。その通りだ。勝手に連れてこられて、勝手に刑罰を受けるなんてひどすぎる。
王様は、まあまあと手でジェスチャーをした後に説明しなおす。
「待て。我々も無駄に時を過ごしてきた訳ではない。対抗策がある。その一つが、この傍らに居る者だ」
そういって王様はローブ姿の老人を紹介しだす。
「拙僧は、イーゴンともうしますただの老いぼれにございます」
かぶっていたフードをはらって、その素顔を見せておじいさんは挨拶をして来た。フードを取ったことではっきりと分かる。目が見えていないのだ。瞳が白く濁っていて、ほどんど黒目の部分がなかった。なんの病気なのだろうか。
「イーゴンはこうへりくだるが、ただの僧侶ではない」
王様が説明する。
「この者には“賢者の眼”が備わっているのだ。見えぬものが、見える。そんな特別な能力だ。王国広しといえど、この力を持つのはこの男しかおらぬのだよ」
イーゴンさんは謙虚さを示すためか、そう説明されると頭を下げていた。
「そして、この賢者の眼の力で、お主たちが勇者かどうか判別出来るのだ。それは勇者に備わっているはずの生物が皆持つ魔力の根源“霊核”の強さを見ることが出来るからだ」
う、ううん? 魔力を勇者は使えるってこと? いや、生物がみな持つ、らしいからこの世界の人々は普通の魔法を使えるのだろうか?
いや、そうなると、まずいぞ……。勘の悪いぼくでも気が付ける。
「まず、そちらのかた。あなたには強い霊核を感じませぬ」
ぼくの方を手で示してそう語りだしてきた。一斉に周囲の視線がぼくにあつまる! うわあ、そうだよ! 魔法とか使えないもの! 霊核なんて、今初めて聞いたよお!
衛兵が剣を抜いて僕へ近づいてきた。ええ、マジで?
「何か弁護することはないのか」
王様が冷静に言い出してくる。弁護? いや、何をどう言えばいいんだ! そもそも、ぼくが魔王の手先ではないって証明するの、難問すぎるよ! こういうのはぼくが魔王の手先なのを示す証拠を出すのがスジだろうに!
文章のボリュームの丁度よさが分からないです……。読みやすいところで区切りたいなあ。