柴又建造の証言
柴又
私は事件をこの目で見ました。正に、二人が争っているところを見たんです。
尋問官
事件発生推定時刻は深夜です。間違いありませんか?
柴又
ええ、間違いありません。私は普通に眠っておりました。ところが突然ドドンと大きな音がしたんです。それで目を覚ましてしまいました。正体は屋根から落ちた雪なのですが、なにせ古い家ですから、もしかしたら壊れているかもしれないと思って外へ出たんです。そうしたら思った通り、雪が落っこちていましたよ。無事、壊れた部分はなさそうでしたから、中へ戻ろうと思ったんですがね、遠くに二つの人影が見えるんです。雪は降っていましたが、はっきり見えましたよ。なんで見続けたかといいますとね、二つの影はどうも争ってるようなんです。だからって見る必要は無いといわれるかもしれませんが、それは野次馬心ってものですよ。ちょいと気になってしまって、家の物陰から様子を見ていたんですわ。声?そんなものは聞こえませんでしたがね。で、組み合ってる間に一人がプツンと切れたようにぶっ倒れちまって。これはやったな、と思って慌てて警察を呼んだんですよ。警察がくるまで、復讐されるのじゃあないかと不安で不安で。
尋問官
警察への報告はどのような手段でしたか?
柴又
そりゃ家の電話で110番ですわ。今の時代、最寄りの派出所に駆け寄るなんてするわけがないでしょうが。掛けた記録を見れば、事件発生の時刻もわかるかと思うんですがね。
尋問官
最初に二つの影を見たときはもうすでに争っていましたか?
柴又
そこまではおぼえとらんですね。もう年ですから、人より忘れっぽいもんでね。