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9話  恥女狩り

 ひらっひらの衣装に変わったゆかりの容赦ない雷撃により……

 教室に居る生徒達は皆ビクビクと痙攣しながら床に転がっている。



「あわわわわ……。学友に対してなんて無慈悲な……。血も涙もありませんね!」


「カナエちゃん以外の人間なんてただの肉の塊だよ。カナエちゃんを脅かすなら始末しなきゃ……」



 自身も放電に当てられながらも平然としているリリスに、縁はライトニングケインを向けて淡々と答えた。

 リリスは両手をクロスしてガード姿勢にはなっているが、相手は雷撃なので谷間が凄くなる以外に全く意味はない。



「形勢逆転ね! ちょっとユカリちゃんが怖いけど……。これで貴女に勝ち目はないわ!」



 魔眼(人の視線)の効果が消えた事により、叶恵かなえもスッと立ち上がり臨戦態勢に移行する。

 波旬はじゅんの口から悦楽刀を抜き出しその姿を和装に変容させた後、鞘(波旬)を教室の窓から投げ捨てた。



「おや、これは舐められたものですね。紛いなりにも女神である私に勝てると思ったのですか? ましてやハジュンさんの力添えもなく……」



 リリスはたじろぐ事もなく笑みを浮かべ、教室の窓に目を向けている。

 そういえばと、波旬の姿がいつの間にか消えて居る事を訝しむ叶恵。

 自身が投げ捨てた事など一瞬で忘れ、肝心な時に役に立たない神様だわと嘆いていた。

 しかしゼノンのように理不尽な雷攻撃を仕掛けて来る訳でも無し、どう見てもか弱い女の子だから。

 二人がかりならなんとでもなるはずと高を括っていた。



「いくら強がっても武器持ってるこっちが有利だもんね!」



 叶恵は悦楽刀を振りかぶり、一直線に駆けてリリスに刀を振り下ろす。

 それをヒラリと避けるリリス。何度も何度も、叶恵はリリスに向けて刀を降ったが全然全く当たらない。

 身のこなしがゲームキャラのように機敏なのである。

 転がってる奴等には意図せずに当たるから喘ぎ声が漏れてかなり鬱陶しい。



「かー! クソ! 避けるなぁ!」


「メチャクチャ言いますね……。でも快楽に耐性のある私にそのまま当てても効果は薄いと思うんですよねぇ……」



 苛立ち始めた叶恵の一刀を指で挟んで止めるリリス。

 そんなエロい事言うなら当たってくれよ叶恵は焦りを感じていた。

 おまけに叶恵は両手で刀を握っているというのに、岩に挟まれたのかと思う程全く動かせなくなっている。



「カナエちゃん! 離れて!」



 縁の合図で叶恵は悦楽刀を手放してその場を飛び退いた。

 即座にリリスは机を宙に蹴り投げ、縁の放った雷撃は机を粉微塵にする。

 上がった足から一瞬覗いたレースのパンツに気を取られ、閃光を直に浴びた叶恵は少しの間目を伏せていた。

 叶恵が目を開けると、その正面には悦楽刀だけが転がっている。

 リリスの姿は消えていたので、恐る恐る叶恵は縁の方に視線を移した。



「な……、なにを……やって……」



 予想を遥かに越えていた事で、叶恵は声が上手く出せなかった。

 縁の背後から、リリスが縁の首筋に噛みついているのだ。

 少し恍惚とした表情の縁はそのまま床に倒れ、リリスはいやらしく舌舐めずりをし、その背中からはコウモリのような黒い羽が広がった。



「けぷぅ……。ゼノンさんの加護が付いているので、こうするしかなかったんですよぉ。少し血を貰って言うことを聞かせやすくしただけですので、私の支配はすぐに解けますよ。ご安心ください」



 薄く笑うリリスの口からは可愛らしい長い八重歯が覗いている。

 叶恵の胸中は全く安心出来ないどころか、混乱と怯えに支配されていた。

 何せ女神と聞いていたのだ。それが吸血鬼を兼ねているなど想像するはずがない。



「ちなみにぃ、格闘戦は得意中の得意なので……。人間が武器を持ったくらいでは勝負になりませんよ? 神々にだって私と張り合えるのはネプトゥヌスさんとアドラメ……」


「は、反則だ! 横暴よ! そもそも神様が戦っちゃ駄目でしょ! ルールの見直しを要求するわ!」



 人差し指を空中でくるくる回しながらにじり寄って来るリリス。

 叶恵は恐ろしさの余り、話の途中ではあるが食い気味に文句を言い放つ。



「ですからぁ。ヒナコさんの元にお連れするだけですってぇ……べべべべべ」



 溜め息混じりに言葉を紡ぐリリスの身体が突然振動し始めた。

 特に胸が盛大に揺れている。本当にどうなってんだアレと少し気が紛れた叶恵。

 リリスは振動しながら首筋から胸の谷間に手を突っ込み、そこからスマホのような物を取り出した。

 そこに物ってしまえるんだなぁと叶恵は感心する。それと同時に殺意も芽生えた。



「もしもし~。セレーネさんですかぁ? 今ちょっと取り込み中なんですけど~」



 取り出した物を耳に当て、陽気に会話を始めたリリス。

 どうやらスマホそのもののようで、通話相手は叶恵が一番始めに会話をした女神のようだ。



「え? 違いますよぉ。お連れしようとしただけですってぇ……。いえ、確かにヒナコさんはここに居ませんが……」



 なにやら必死に言い訳を始めているリリス。

 叶恵は戦闘中の情報は神様達に筒抜けになってるのか? と思案する。

 ならば自身と縁が戦闘を行っていたのに、当のリリスの相方が居ない事を怪しんでいるという内容だと結論が出る。



「た~すけてぇ~! リリスさんがぁ! 襲ってくるぅぅぅ!」


「ちょあ!? い、いや待ってください! 何かの間違いなんですよ! はいもちろんです! 私は戦いませんよ! ほら、魔力も消しましたよ! ええ、話し合いですからね!」



 叶恵の叫びが会話相手に聞こえたのか、怒られているであろうリリスからは禍々しい気配と黒い羽が消え去っていく。

 叶恵の予想通り、リリスの行動はルール上違反に当たるようであった。



「はい、はい。なるほど……。プルートさんとネプトゥヌスさんの担当も決まったんですね。え? いきなり泣かないでくださいよ! 誰もボッチ女神なんて言ってないですって! そんな、真面目なのは良い事ですよぉ!」



 リリスと会話相手の話は長く、叶恵はセレーネという女神が思う以上に面倒な女なんだろうなと想像する。

 愚痴や泣き言を聞かされているのか、会話相手に励ましやら慰めの言葉を掛けるリリスの様子から用意に判断出来るのだ。

 そうして長い話を終えたリリスはスマホをまた胸の谷間にしまい込み、ようやく叶恵に向き直った。



「ぷぅ……。さて、では私はこの辺りで失礼しますね。他の候補者も現れたようなので、今カナエさんにこだわる理由もなくなりましたし……。ああ、聞いているとは思いますが、総当たり戦なのでいずれまた伺いますね」


「ねえ待って。忘れ物があるんだけど……」



 リリスは何事もなかったようにこの場から立ち去ろうとしたが……

 そうはいかないと低く口調で引き止める叶恵。

 総当たり戦も叶恵にとって初耳であるが、どうでも良い事だった。

 負け扱いの縁が魔法を使えるのと、ゼノンがどうどうと居座ってる謎に納得はいったけれど……

 そんな事より先程の話を聞く限り、リリスはもう叶恵に危害を加える事は出来ないという事なのである。それならば……



「いや~。差し上げますよ~。あ、他の皆さんは少ししたら目覚めて各々帰宅しますので、夜グッスリ寝たら元通りですはい。この十数分の記憶も曖昧で、集団白昼夢だと補完されて終わりますから……」


「ううん。利子付けて返してあげる」



 やたら早口で愉快な話をしながら、引きつった笑いと共に後退りするリリス。

 叶恵はそんなリリスに悦楽刀の峰で左手を叩きながら笑顔で近付いていく。



「きゃ~! おまわりさ~ん!」


「待てぇ! この恥女女神~! 本当に効かないか試してやろうじゃない!」



 教室から飛び出したリリスを追う叶恵。

 誰も歩いていない静かな学校の廊下を駆け回っている。

 倒れた生徒も続々と起き上がり、虚ろな瞳のまま下校して行く。



「んにゃ……。カナエちゃん……」


「起きたかユカリ。大変だぞ!」



 目を覚ましたユカリの側で、波旬が真剣な声色で声を掛けていた。

 校内には叶恵の雄叫びとリリスの悲鳴がなお木霊している。



「は! カナエちゃんの身に危険が迫ってるのね!」


「そんな事はどうでもいい! 下の階のジハンキという奴の中に『暗黒甘味炭酸水』を発見した! 買いに行こう! 我はアレが飲みたい!」



 縁の心配を一蹴し、尻尾をピコピコ揺らしながら己が願望を告げる波旬。

 叶恵の父が夜中に箱で買ってくると分かっていても我慢が出来なかったのだ。



「え~。ん~、カナエちゃんの声楽しそうだし……。ま、いっかぁ」


「甘味、甘味、炭・酸・水!」



 校内に響く叶恵の笑い声に危機感が薄れた縁は御機嫌な波旬を肩に乗せ、教室を後にした。

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