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5話  文明の力

 身体中から電気を発するゼノン。

 明らかに不機嫌で敵意を剥き出しにしている。



「ふざけんなよ? こんな終わり方納得できるか!」


「う……、そんなこと言ったってこれがルールじゃないの? そもそもなんでアンタは電化製品をそんなに目の敵にしてるのよ!」



 ゼノンの怒声に怯みながらも叶恵かなえゆかりを抱えたまま抗議する。

 その間も悦楽刀の効果で敏感になっている縁の足を撫で回す行為は怠ってはいない。



「昔はなぁ……。ちょっと人前に出て発光してやるだけで、神だなんだともてはやされたもんだがな……。今となっちゃ、至るところでピッカピッカピッカピッカと……。これじゃ俺が目立たねぇんだよ!」



 ゼノンの言い分ではつまり、街灯などの明かりが目障りなようだ。

 なので自分が目立つために、電化製品を消そうとしていると言っている訳であるが……



「電化製品……、関係なくない? 電化製品ってテレビとかの家電でしょ?」


「え?」



 叶恵の言葉にゼノンが唖然としている所に、ニョロリと這う波旬はじゅんが割って入る。

 ここに来てようやく目が覚めたようだ。



「お前達いつの間に戦っていたのだ? というよりなにを言っている? 電化製品とは手動の物を電気化したものだから正確にはテレビも電化製品ではないぞ? つまり勝とうが負けようがゼノンが目立つことはないのだよ。そもそも目立とうとするな」


「そうなの? じゃ無理して争う必要なかったわね」



 波旬の話ではここで叶恵が負けてもゲームが無くなる心配はなかったという事。

 叶恵の脳裏に、なら別に負けても良いじゃんと怠惰な思考が過る。



「こ、こうしましょう? なんなら私の負けでも……」


「目的の設定ミスかよ……。じゃ、良いや、せめて負けの汚点だけは払わせてもらうぞ……」



 叶恵の負けで良いと言っているのにゼノンは叶恵達を睨み付ける。

 その怒りは何故か増し、より戦意を強調した。



「やっば……。逃げるわよユカリちゃん!」



 叶恵は目が虚ろでよだれを垂らしている縁を連れ、全力で神社の方向に逃げ出した。

 波旬はちゃっかり叶恵の懐に入り込んでいる。



「ハーくん! 強そうだったけど私達であの人に勝てるの?」


「無理だな。この地に現界した我らは世界の中核に溶け込んだ神々の分霊、とはいえ人の勝てる存在ではない。物理干渉に乏しい我ではゼノンの雷撃からお前達を守るのも厳しいものがある」



 倒せるなら倒そうかと考えた叶恵だが、波旬の話ではやはり勝てる相手ではないらしい。

 叶恵は怯える縁の手を引き、神社の境内まで移動した。



「それにしても、なんで人が居ないの?」


「この辺りにゼノンのヤツが人払いの結界を張っているようだ。一応部外者に危害を加えることを禁止するルールだからな」



 叶恵の疑問に波旬が示すのは一筋の光明。

 そういうことなら活路はある。そう思い至った叶恵は一つの賭けに出る。



「なら、二人共ちょっと協力してもらうわ……」



 ーーーーーーーーーー



 境内の真ん中でゼノンを待ち受けていた縁。

 ゼノンは微笑を浮かべ、縁に語り掛けた。



「俺の力を模した杖を扱えないお前が……、なんの真似だ? まさか俺に勝てるとは思ってねぇだろうな?」


「う……、わた、私は……」



 ゼノンの威圧にブルブルと怯える縁。

 足も震えて立っているのがやっとの状態である。



「切り捨てゴメン!」


「がう!? ……う……が……。なん……だと。どこ……から」



 物陰から現れた叶恵の一声と同時に呻くゼノン。

 叶恵はゼノンの背中を悦楽刀で思いっきり突き刺した後、大回りで縁の側に駆け寄った。

 叶恵はゼノンが縁に意識を取られている一瞬の隙を狙ったのだ。

 波旬の出した煙霧をまとい、その気配を一時的に遮断して……



「よっし、ユカリちゃんは逃げて!」


「で、でも……」


「早く!」



 叶恵は撤退を渋る縁を神社の裏手まで逃がした後、ゼノンに向き直った。

 その顔は決意に満ち溢れる戦士の表情。



「ハァ……ハァ……。不意討ちで……一発食らわしたからって調子に、乗る……な」



 ゼノンの様子から一応効いてくれてはいると安堵する叶恵。

 叶恵は悦楽刀が多少の効果を発揮した事を確認したあと、悦楽刀を波旬の口の中にねじ込み、さや(波旬)を背後に投げ捨てた。

 すぐさま叶恵の衣装も元のコート姿に戻る。



「なんの……真似だ?」


「見ての通りよ……。丸腰相手にビリビリ放電しなくちゃ勝てないなんてないわよね……」



 ゼノンは武装を解いた叶恵を見据え、その挑発で自らも能力を解いた。

 能力抜きなら勝つ算段があるとでも言いたいのか、どちらにせよ面白いから乗ってやることにしたのだ。



「はは、上等だよ……素手でやりてぇってんなら……」


「ふ……ぐす……、もうゆるしてぇ……」



 意気込むゼノンが能力を解いたと同時に、顔を伏せて泣き始める叶恵。

 先程の威勢が嘘のような弱々しさである。



「あ? 何泣いてんだよ? いくら泣いたって無駄だ。素手が良いんだろう? お望み通りこのままやってやろうってんじゃねぇか!」


「う……、酷いことしないで……。やりたくないよぉ……」



 いきなり弱気になった叶恵に苛立ちを募らせ始めるゼノン。

 叶恵はもはや戦意の欠片もないようにすすり泣いていた。



「テッメェ……。く……じゃ……、もう大人しくやられてろ……っとぉ!?」



 先程背中から突き抜かれた胸を押さえながらゼノンが叶恵に近づこうとしたその時、背後からの圧力を受けゼノンの身体が地に伏せる。

 数人の男に手と肩を押さえ付けられ、身動きを封じられているのだ。



「あ~、11時22分。犯人確保」


「ま~たアンタか。やっば変質者はアンタじゃねぇかぃ」



 ゼノンを拘束しているのは先程撒いたはずの警官達だった。

 能力を解除したことで結界まで消してしまっていたのだ。



「なっ! しまっ……。おい! コイツらどうにか……」



 ゼノンは部外者である警官達に手を上げられない。

 仕方がないので叶恵になんとか話を付けてもらおうと試みたのだが……

 警官が見てない隙に叶恵は片手を腰に当て、目に目薬を垂らしていた。



「おまわりさん! 私、怖かったぁ!」


「おお、よしよし。もう大丈夫だからな!」



 泣きながら語る叶恵を慰める警官。

 ゼノンは叶恵に嵌められたことに気付いた。警官の目を盗んで叶恵はゼノンに凄く悪そうな笑顔を向けているのだ。



「おい! 騙されんな! コイツ……」


『もうゆるしてぇ……。やりたくないよぉ……』


『ハァハァ、いくら泣いたって無駄だ。ハァハァ、このままやってやろうってんじゃねぇか! ハァハァ、大人しくやられてろ』



 ゼノンが叶恵の演技をばらそうとしたところで、叶恵はスマホからたった今編集したボイスメモを垂れ流す。

 それを聞いた警官達はゼノンを睨み付け、ゼノンの両肩を支えて車に連行していった。



「待てってぇ! 俺は神だぞぉ!」


「はいはい、皆そういうんだよ」



 ゼノンと警官のやり取りをほくそ笑みながら見送る叶恵。

 隠れていた縁は叶恵に向かって駆け出し、叶恵は縁を抱き締めた。

 勝利の余韻に浸った叶恵は残った警官の軽い事情聴取に答え、家まで送ってもらうため、縁と共に車に乗り込んでいく。



「なにをしたのだ?」


「簡単よ。さっきハーくんに頼んで結界に隙間空けてもらったじゃない? その時ママにメールしといたの。ほれこれ」



 車内で叶恵の背中からちょこっと顔を出し、小声で問いかける波旬にメールを見せる叶恵。



 叶恵『マミン。猫頭公園にて変質者発見。至急ポリスメェンを!』

 幸恵『イエスポリスメェン!』

 叶恵『ゴー!ポリスメェン!』

 幸恵『メェン!メメェン!』



 波旬の胸中は、えらいところに派遣されたという思いで満たされる。

 メールの内容に言葉も出ない波旬は今後の生活に一抹の不安を感じつつ、ゼノンをどうしようか考えていた。

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