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4話  新しい友情の形

 ゆかりとの待ち合わせ場所である猫頭公園に到着した叶恵かなえ波旬はじゅん

 叶恵は公園の雰囲気がいつもと違うことに違和感を感じていた。



「あれ? お昼前のこの時間ってもう少し賑わってるはずなんだけどな……。っていうか誰もいない?」



 神社の境内に面した公園、いつもは親子連れが群れをなしてやや近寄り難い場所である。

 しかし、今日に限っては人の気配も声さえしなかった。



「待ってたよ……カナエちゃん……」



 そう言いながら木の影に隠れていた少女が姿を現した。

 叶恵の幼なじみである、寺坂縁てらさかゆかり。身長144センチ。血液型A型。胸のサイズはAカップ。

 腰まである長い髪はやや茶髪の地毛で少し天然パーマがかかっている。

 伏し目がちなおどおどした庇護欲を掻き立てられる美少女だ。

 なお、可愛い癖に自己評価が低く暗い性格が災いしてるのか、同性の受けは基本的にすこぶる悪いが叶恵にとっては大好きな親友である。

 今だってロングスカートと手先しか出てないコートを着て、本当は細いのにゴテゴテの着膨れ感が可愛さしかない。

 叶恵より全体的に一回り小さい子である。



「ゆかりちゃん! どうしたの? いつにも増して暗い顔して……。急に会いたいなんて言うからビックリして……」



 叶恵は笑顔で話していたが途中で言葉に詰まった。

 縁の側にあったコンクリートマウンテンの中から人が出て来ようとしているのが目についたのだ。



「くくく……。痛っ! くそ! せめぇーな!」



 文句を言いながらあちこちぶつけて這い出してくる大柄の男。

 それはそうだろう。子供用の遊具なのだ。むしろなんで入ってたんだろうか?

 と叶恵が不審に思っているとその不審者がこちらに近付いてきた。



「お前が波旬の相方か? んじゃさっそく始めるか? ああ、俺の力で人払いは済んでっからよ。気にせず暴れて良いぞ」



 縁の側に立ち、物騒な事を話し出すガラの悪そうな金髪の男。

 叶恵はポケットから波旬を取り出し語りかけた。



「ハーくん! この人ってもしかして……」


「すぴ~。すぴ~」


「静かだと思ったら寝てやがったわこの蛇」



 慌てて状況確認をする叶恵に応じず気持ち良く寝息を立てる波旬。

 叶恵は静かに憤慨したが、相手が波旬を知っている。これだけで答えは出ているようなものであった。



「まさか……、神様……なの? え、ユカリちゃんもこの争いに参加してるっていうこと!?」


「その通り。俺の名はゼノン! 天を支配する神だ! そんでもってユカリの相方だな」



 驚きのまま事実確認をする叶恵に、悪い笑顔のお兄さんは肯定と共に名を名乗る。

 叶恵は一瞬危ないお兄さんに絡まれたのかと思ったが……

 このバカっぽい神様は最初に見た気がする事を思い出した。



「ごめん……、ごめんねカナエちゃん……」



 悲しそうにうつ向く縁は一歩前に進み、スカートのポケットからスタンガンのような物を取り出した。

 それは瞬く間に杖と呼べる長さにまで伸びる。



「マジカルチェンジ!」



 杖の末端を地面に突き立て、縁が一声したと同時に縁の身体は電流のような輝きを放った。

 光が収まったそこには……

 黄色を基調としたフリッフリの明るいキャピルン(死語)仕様のコスチュームをまとった縁が姿を現した。



「さすがユカリちゃんね……。私には絶対着れないヤツだあれ……」



 高校生にもなってなにやってんだ、との感想は胸の奥に封印する叶恵。

 とりあえずは似合ってるからセーフってことにして置いた。



「カナエちゃん……。戦って……。戦うしかないんだよ私達……」


「そんな! 嫌だよ! 友達同士で戦うなんて……」



 縁の悲しげな言葉に今にも泣きそうな声で返す叶恵。

 いきなり友人同士で争わなければならない状況に運命の無情さを感じていた。



「んじゃ~。こっちの勝ちか? 電化製品撲滅に向けて一歩前進したわけだな!」



 ゼノンの言葉を聞いた叶恵の行動は早い。

 左手で持った波旬の口に右手を突っ込む叶恵。大きく口元が変形する波旬。



悦楽刀えつらくとう! 黒心こくしん波桜はざくら!」



 波旬の口から水平に刀を抜き放つ叶恵。

 決意の瞳を縁とゼノンに向け、さや(波旬)を背後に放り投げ再び一声する。



魔装転衣まそうてんい!」



 黒い煙霧が形作る黒い着物をまとう叶恵。

 刀を脇に構え、戦意をまとう黒い花が戦場に咲いた。



「させないわ……。この世界のゲームは……、私が守る!」


「やっぱりカナエちゃんは……、ううん。良いんだ、これで……終わるんだから!」



 叶恵、縁が互いの想いを胸に睨み合い火花を散らす。

 叶恵の構えを見据え、ゼノンは一人心地よい戦場の気配を感じていた。



「そりゃユカリから刃を隠して剣筋を見極められないようにする構えか? 作戦にしちゃーちと陳腐過ぎんな」


「は? なにそれ? 違うわよ? その子、先端恐怖症だから刃先なんて向けられないだけよ!」



 剣士としての知略と考えたゼノンの言葉を即座に否定する叶恵。

 叶恵は剣なんて扱ったことがないのだから、そんな考えが浮かぶ訳がないのだ。



「カ、カナエちゃん……。やっぱり私のこと……。……だ、駄目だよ……。惑わされないからね!」


「お、おお! やってやれユカリ!」



 優しさに惑わされそうになる気持ちを払う縁。

 ゼノンも聞かなかったことにして仕切り直した。



「てぇぇぇい!」



 威勢良く掛け声を上げる縁の持つ杖、ライトニングケインが光を放ち始める。

 徐々に増す光は力強く、やがて大きくバチリと弾けた。



「ひう!」


「……うん?」



 バチリと放電したライトニングケインと共に縁の身体も一緒に跳ねる。

 ゼノンは一瞬だけしか放電しなかったことに疑問を抱いた。



「お、おい……。そこまで遠慮しなくったって死にゃしねぇよ。相手も魔導法衣まとってんだからよ」


「う、うん……。え、え~~い!」



 縁はしゃがみ込み、杖だけを叶恵に向けて目をつぶってそっぽを向いている。

 タッタッタッタ! という音を奏で、杖の先端に発生している雷撃は弱めのスタンガンのそれである。



「ユカリちゃん……。雷とは苦手だし……。花火用のライターすら使えないけど……。どうしてそれ選んだの?」


「なにぃ!? どういうこった!?」



 叶恵とゼノンは自分が発生させている雷撃に怯えて泣いている縁に問いかけた。

 縁は泣き崩れ、その心中を語る。



「だって……、だってカナエちゃんが、いつもゲームゲームで私に構ってくれないから! ゲームなんて無くなっちゃえば……、きっと私を見てくれると思って……」



 縁の語る面倒くさ、ではなく可愛らしさにほっこりする叶恵。

 言葉に出し、言ってくれたらこんな凄惨な事態にはならなかったかもしれないのだ。

 友達とゲームを天秤にかけるなんて、いくら叶恵でも多分する訳はない。



「ユカリちゃん……。バカね……、ユカリちゃんは私の一番大切な友達よ。私はね、ずっと思ってたの……。ユカリちゃんと一緒に……ゲームがしたいってね……」


「カナエちゃん……。本当? 本当に私のこと大切だって思ってくれるの? 私と遊んでくれるの?」



 優しい口振りで諭す叶恵。それを受けて晴れ渡る縁の表情と心。

 笑顔で大きく頷く叶恵、その胸に泣きながら飛び付く縁。

 二人の友情はここに修復され……、いや、より強く再構築されたのだ。



「え? 良いのか? ゲームと同列にされてるように聞こえるんだが?」



 唖然とするゼノンをほったらかしにし、話を進める叶恵と縁。

 縁は小さくえいっ! と呟くと叶恵の持つ刀にそっと自らの足を触れさせた。



「くぅ! ……ん……」


「ユカリちゃん!? なにを……」



 縁は叶恵の胸元から崩れ落ちた。倒れる縁の頭を支える叶恵。

 息が荒く苦しそうな縁はそれでも頑張って声を絞り出した。



「ハァ……ハァ……、カナエちゃ……ん……。私の……負け……だよ。ごめん……ね」


「ユカリちゃん……」



 縁はこの戦いを終わらせるため、自ら悦楽刀の刃に触れたのだ。

 涙をポロポロと流し、ビクリビクリと痙攣する縁。

 叶恵は悦楽刀が触れた超敏感になっている縁の足を、撫でたり揉んだり擦ったりしながらその様子を眺めていた。



「あ! カナっ! エ……ちゃ……んぅ……」


(ムラムラするわね。どうしよう……、これ楽しいわ)



 縁と叶恵が友情を深めあっているそのすぐ側で、チリチリと大気がピリついていた。

 ゼノンの身体が放電しているのだ。



「いくらなんでも……、そりゃ~ねぇだろうよ……」



 口元をひくつかせ、叶恵と縁を睨みつけるゼノン。

 どうやらこういう決着はお気に召さないご様子である。

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