Dear The Wourld
上る。上る。
今、階段を上る。仄暗い石の螺旋階段。明かりは松明のみ。後も先も見えない階段を上る。
溢れ出るこの筆舌に尽くし難い気持ちをどうしてやろうか、叫んでやろうか。暴れ回ってやろうか。そんな気持ちを余所に顔を平静に保とうと、拳を固く握った。
壁伝いに階段を上がる。触る石の感触、伝う水。
どうやら、"外"が近いようだ。微かに聞こえる風の音に心が鳴りを潜めた。呼吸が苦しくなる。
隠そう、隠そうと、心の中で強く思う程、拳はその都度握る力が強くなる。出血までする程に。
石階段を上り切る、漸く、開放的な場所に出た。天井は無く、吹き曝しで、風の音が少々耳障りだ。
腹の中にある感情が身体を内から満たし、表情が消えうせ、感情が殺される。
兵士に連れられ、歩み出す。一歩一歩躊躇いもなく、踏み外すこともなく、寿命を削っていく。
木の板はギシギシと子気味良い音を立て、遂に、遂に、
________遂に、断頭台に首をかける。
心做しか血の匂いがしたが、やはり気のせいだろう。
だが、死の間近となると頭はそれを理解できないようで感情を押し殺したはずの顔が歪み、鳴りをひそめた心が盛大に悲しむ。
嗚咽を隠そうと、上を向く。
そこには満天の星々が何知らぬ顔で輝いていた。
_______ふざけんな。ふざけんなよっ。
ついさっきまで身体を満たしていた、蝕んでいた気持ちが、塗り変わっていく。悲愴でも、虚無でも、憤怒でも、嫉妬でも、無、でもない。これは希望だ。
だが遅すぎた。あまりにも遅すぎた。
大斧が振り下ろされる瞬間、思いの丈をこの世に、叫ぶ。
負け犬の遠吠えだっていい。俺はここにいる、と叫びたかった。歪んだ顔が、身体が、心が、全身全霊で世界に存在していると叫びたがっている。この、親愛なるクソッタレの世界に。
「俺はぁっ________死にたくなんかないっ」
絶対死ぬものか。生きて、生きて、生きて、生き抜いてやる。
次の瞬間、小早川春人の視界は黒に遮られた。