孝行息子
「それでは午後はグループトークです。くじを引いてグループになってください。」
どうやら午後は少人数で話し合いをするらしい。
「この活動では自分の意見を発表すること、人の意見をしっかり聞くことが目的です。差別的な発言や反対意見は避け、相手の心に寄り添ってください。今回のテーマは自分の体調不良の原因です。それでは20分間話し合いをしてください。」
私のグループは行方さん、道免さん、銀山さんだった。
「今回の話題重いですね。」
「原因か~、そういえば銀山さんの話聞いたことないっすね。」
「…あんまり思い出したくなくて。でもいい機会かもしれないですね。
ちょっと重たい話になりますが僕がここに来た原因は言ってしまえば…殺人かな」
行方さんの顔が引きつるのが見えた。
「僕は小さい頃から内気で、外で遊ぶより一人で本を読むほうが好きでした。
中学・高校と進んでも本ばかり読んでいて、そこそこ勉強はできたのですがあまり友達は多いほうではありませんでした。
そんな僕の味方をしてくれたのが、両親でした。
両親は実家の一階で小さな定食屋を開いていて、毎日朝早くから夜遅くまで働いていました。
美味しそうな匂い、両親の働く姿、優しい常連さん…僕はその空間が大好きでした
自分も両親のように高卒で定食屋を継ごうと考えていましたが、『お前は賢いから大学に行け』と僕を進学させてくれました。
定食屋の売上ではきっと大学の費用は大きな負担になったでしょう。
しかし一人息子の僕のために必死に貯金をしてくれていたそうです。
いつか恩返しがしたい、そう思い調理と栄養の学べる大学に行き毎日必死に勉強をし、某ホテルのレストランで働けるようになりました。
何度かボーナスをもらった後、僕は両親に親孝行と称して温泉旅行をプレゼントしました。
『もし何かあったら店を頼む』
そう言い残した二人が帰ってくることはありませんでした。
帰りの高速道路で悪質なあおり運転をされ大事故を起こし、即死だったそうです。
僕が温泉旅行なんてプレゼントしなければ、僕がやったことは親孝行なんかじゃないただの自己満足だ、僕は実の両親を殺したんだ。
友達も、恋人はおろか兄弟さえいない僕は一人ぼっちでした。
それでもお腹は空いてくる。
今までのくせで3人分作ってしまうんですよね。もう誰もいないのに。
いつの間にか僕は、家で3人前の料理を作っては食べ、食べては作り、食べることで寂しさを紛らわせるようになりました。
心配した会社の同期に連れていかれた病院では過食症と診断され、そこそこ良くなって今に至る感じです。」
「…すいません。でもそれって殺人なんかじゃ」
「いいんです。いい加減前向かないといけないんで。」
世の中は平等じゃない。
優しい人が傷ついて、器用に鈍感で鋭い人が生き残る。
失ったものは大きいけれど、いつかそれ以上の幸せが来てほしいと思った。
銀山さん
過食症・うつ病。
町で評判の定食屋の一人息子で某有名ホテルで修業した料理人。
愛読書は「人間失格」




