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第二話

「人々は私の愛に願いを捧げる。恋人たちは愛のイベントに縁起を担いで、愛を確かめ合う。人々は私のために空を見上げ、愛に満ちた星空を眺めて幸せな気分になるのよ」


 まるで恋愛を世界に広げているのは自分だとでも言わんばかりの発言だ。だが、彼女がそこまで言いたくなる気持ちも分かった。


「ハア、七月には七夕があるから、自分は愛の女神だとでも言いたいの?」


 水無月さんは呆れたようにため息をついて言った。


「その通りよ、私は織姫のように永遠の純愛を貫き続けるのよ」


 そう言いながら、文月さんはクルリとターンした。もう完全に自分の世界に入り込んでいる。


「そうなの?本当にそうなの?」


 水無月さんが浮かれる文月さんに対し、微かに微笑んだ。僕は彼女の眼を見て、ゾッとした。獲物を追いつめる肉食獣のような目の色をしていた。


「それなら何故、先月、ジューンブラインドの花嫁のブーケをマジになって取ったの?」

「え・・・・・・」

「自分は愛の女神のような言い方をしていた割にはやることはせこいんじゃないの?」


「そ、それは・・・、女の性ってやつよ・・・・」


 文月さんの視線は明らかに彷徨っていた。自分でも明確な回答が出来ていないことを理解しているのかもしれない。


「純愛を貫くって言っても、織姫と彦星がしていることは年に一度しか会えない、究極の長距離恋愛じゃない。永遠に結ばれることのない哀れな遠距離恋愛。いくらなんでもそろそろ疲れているんじゃないかしら」


「そ、そんなことないわよ!!七夕がなければ、この夏の恋愛イベントはなくなってしまうわ!!」


 文月さんは耳をふさいで叫んだ。それは僕が聞いていても痛々しい叫びだった。


「夏の恋愛イベントなんて、別に七月じゃなくてもいいんじゃない?むしろ、ひと夏のアバンチュールは長い夏休みの中で培われるのではないのかしら」


 不意に僕らの背後から声がした。振り返るとそこにいたのは葉月さんだ。葉月さんは八月である。学生にしてみれば長い夏休み、社会人のとっても盆休みという長い休暇がある。そして、花火や夏祭り、海水浴にキャンプとイベントの大半を占めていると言っても過言ではない。その葉月さんが満を持して登場したのだ。文月さんの表情は明らかに硬直していた。


「でも、長い夏休みまで何のイベントもないのも可哀そうよね。あなたたちがジューンブラインドや七夕で世の女性たちの恋愛への情熱を失わないようにしてくれるから、八月が盛り上がるのよ。ありがとうね」


 葉月さんはそう言って微笑んだ。完全な上から目線に文月さんは唇を噛みしめていた。それに水無月さんがよりそう。


「ようこそ。これであなたも私の仲間ね」


 そう言って水無月さんは文月さんを優しく包み込んだ。ああ、二人はようやく和解できたのかと思いたいところであるが、そのすぐそばで自信満々の表情で微笑んでいる葉月さんを見ているとこの先が不安になった。そして、急に仲が良くなった水無月さんと文月さんも心配になった。


「夏もいよいよ本番か、さらに暑くなりそうだ・・・・」


 僕は空を見上げて呟かずにはいられなかった。


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