第一話
夏の訪れを感じさせる月。それは7月だろう。日本人の感覚としては梅雨明けをしたこの頃が最も暑さが身に染みる気がするからだ。
そんなわけで、僕は今、海にいる。浜辺でバーベキューというありふれた展開だ。それを取り仕切るのは今月の月である文月さん。前回、水無月さんからブーケを奪い取った女性であり、彼女が今回の主役である。
「さあ、お肉焼けたようだから、食べて、食べて・・・・」
文月さんは水着にパレオやウィンドブレーカーを羽織り、せっせと次に焼く肉や野菜を網の上に置いていく。その手際の良さはさすが暑い季節にあったアウトドアな趣味ならではである。
「やはり、文月さんは海が似合いますね」
僕は肉を頬張りながら、海を見て言った。
「お魚もあるわよ。さっき釣ってきたの」
健康的に日焼けした彼女を見ていると、本当に海が似合っている活発な女性に思えてくる。まさに来たるべき、夏休みを謳歌しようとしているポジティブな月だ。
「フン、騙されちゃ、ダメよ」
僕の背後に立てられたビーチパラソルの影から、ゆっくりと顔を出したのは水無月さん、彼女はすでに終わった6月である。
「何か、不服そうね」と文月さん。
「そんなことはないわよ」と水無月さん。
僕が思うに、水無月さんは昨月、結婚式のブーケを文月さんに奪われたことを根に持っているらしい。
「ただ、安易じゃないかしら。海の日という祝日があるから、海好きだなんて」
「日本は海洋国家なのよ。海に対する重要度が高いのは当然じゃない」
二人の言い合いが始まった。この二人が顔を合わせた時点で、何か不穏な空気を感じていたが、早くもバトルに突入したようだ。こういう場合、語り手である僕が仲裁に入らなければならないだろう。
「まあまあ、そんなこといいじゃないか、休みは愉しまないとね」
僕はそう言って、水無月さんに焼けた肉を取ってあげた。それを受け取り、早速口にしながらも、水無月さんは文月さんを睨みつけていた。
「昔はそんな子じゃなかったのに・・・・」水無月さんは言った。
「それ、どういう意味?」文月さんは聞き返す。
「昔はあなたも祝祭日がない私と似た境遇だった」
しんみりとした顔で水無月さんは言う。そう言えば、海の日が施行されたのは1996年のこと。それまでは7月に祝祭日はなかった。ただ学生にしてみれば、夏休みに入ることもあり、休みのない月というイメージは少ない。
「それが、今では天下でも取ったつもり?学生にしてみれば、そんな夏休み前に連休いれられてもうれしくもなんともないと思うけど」
休みが増えたくらいでそこまでいうこともないのだろうが、コンプレックスとなっている水無月さんには重要なことなのかもしれない。
「ふん、そういう僻み根性、よくないわよ」
そう言って、文月さんは水無月さんの正面に立った。文月さんの身長は水無月さんよりも一回り大きい。なるほど、この身長の差がブーケ争奪戦の勝因になったわけか。
「所詮は30日しかない月ね。私と比べると実に小さいわ。体だけじゃなくて器の方もね」
勝ち誇ったように文月さんは言った。
「それに私には他の月にはない恋愛イベントもあるのよ」
文月さんは大きく手を広げて叫んだ。




