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3 自覚・カーネリアン

 

 リナリアのひとつ上であるカーネリアンは、十一歳になっていた。


 平凡なカーネリアンに、天使の生まれ変わりのようなリナリアが付きまとう。

 カーネリアンは複雑だった。

 十歳とは思えないほど、リナリアの歌声は素晴らしい。

 初めてこの街に来たとき、随分綺麗な子がいるな、と思ったが、何よりカーネリアンが心惹かれたのはその声だ。

 五歳のときはまだ、子供の可愛い声だったが、今ではもう、天使そのものだ。

 もちろん本物の天使の声を聴いたこともないし、神様と違って人々の空想の存在なので、いるかどうかは分からない。

 神様の遣いである天使に例えられるのは、最上の誉め言葉だ。


 カーネリアンはいつも、こっそり歌を聴きに行く。

 リナリアの取り巻き達のように、あからさまに好意を見せるのは憚りがあった。というのも、あくまでカーネリアンが好きなのはリナリアの歌声であって、リナリア自身ではないからだ。


 リナリアは確かに可愛らしいが、自分勝手で、我が儘だ。

 物を譲られるのは当然だと思っているし、沢山の取り巻きがいるくせに、カーネリアンが何処かへ行こうとすると、「どこへ行くのよ!」と、離してくれない。


「用事はないし。もう帰る。君はそこにいたら?」


 カーネリアンが言うと、


「用事がないならまだ居なさいよ! 私より優先することなんて無いでしょ?」


 カーネリアンから見てリナリアの態度は、一緒に居たいというより、そちらから離れたがるなんてあり得ない、といったものだった。

 優しげといえば聞こえがいいが、頼りなくも見えるカーネリアンは、頭の中では常に冷静で、皆から一歩離れた所からリナリアを見ていた。

 皆は、リナリアの性格は気にならないようだ。

 可愛ければ何でも許されるらしい。

 馬鹿馬鹿しく思う。

 リナリアは自分の思い通りにならないからか、カーネリアンが移動すると、最初は引き留めるが、意志が変わらないと分かると、付いてくるようになった。

 カーネリアンは不愉快だった。

 そこまで固執しなくてもいいだろうと思った。


 リナリアの歌が好きだというのは、絶対本人に気付かれたくないと思うようになった。

 リナリアは誰のことも好きではない。

 皆がリナリアを好きなのは当たり前のことなのだ。

 もし気付かれたら、

「やっぱりカーネリアンも私のことが好きなのね!」

 といって、満足するだろう。

 カーネリアンが好きなのは歌だけだと反論しても、嫌いなやつの歌など好きにはならないと思われそうだ。


 十三歳になる頃、カーネリアンは相変わらずリナリアに興味が無いふりをしながら、もう誤魔化せないと感じていた。

 リナリアに付きまとわれて不愉快だと思っていたが、実はそうでは無いことに気付いてしまった。

 何故リナリアはカーネリアンなどに構うのだろうと考えたときに、行き着く明白な理由が気に食わなかったのだ。

 リナリアの自尊心のためではなく、カーネリアン自身を見てほしかった。

 カーネリアンに少しでも好意があるからだと思いたかった。

 リナリアの歌を聴いているのも、うまくやっているので、ばれてはいない。

 リナリアは未だカーネリアンを構う。

 カーネリアンが他の大多数と同じ、天使に魅了された取るに足らない存在だと分かれば、リナリアはカーネリアンへの興味を無くすだろう。

 それだけは嫌だった。

 カーネリアンの価値はそれだけだった。




 リナリアの、声を失う事件が起きたのは、カーネリアンが恋を自覚したすぐあとのことだった。



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