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アーツ・ホルダー  作者: 字理 四宵 
第十章 黒馬事件
99/200

11-1

黒馬事件から数日後。ララベルさんに大きな怪我はなく、翌日から隊長代理として、再び働き始めている。

ジャヴさんも僕もララベルさんも、黒馬に対して使った自分の武器を回収して業務に戻った。血まみれの槍、刃こぼれしたナイフ、がれきの下敷きになって歪んだ斧が、激戦を物語っている。ジャヴさんは、今回の事件でわずかにでたボーナスを使って斧を買い足すそうだ。


その日、僕がいつも通り宮殿に行くと、剣精の様子がいつもと少し違っていた。隙が無いのは変わらないのだが、どこか落ち着かずにそわそわしている。


「・・・レイル君」

「なんでしょう」


剣精が妙に丁寧になるときは、あまりいい傾向ではないのを、経験則から知っている。


「今日は、実戦方式でいこうと思う」


剣精の発言は奇妙なものだった。実戦形式なら、毎日のように死ぬほどやっているはずだ。あれは実戦形式ではなかったのだろうか。

首をかしげる僕に、剣精は話を続ける。


「修行とはいえ、毎日毎日、コテンパンにやられていてばかりでは、嫌になるだろう。なぁ」

「うーん、まぁ・・・」


煮え切らない返事をしたのは、僕にとって毎日の訓練は楽しくて、嫌になるということはまるでなかったからだ。こんなに楽しいことばかりをして、お金をもらっていいのだろうか・・・そんなことを毎日考えていたくらいなのだが、話を続けるために、同意のふりをする。


「そこで、今日は別の人間を用意した!」


剣精は、自分でじゃじゃん!と言う。妙にテンションが高かったのは、他に人がいたからなのか、と心のうちで納得する。


「えっ、別の人ですか」

「うむ。お前も知っている人物だ。さぁ、アッシュ、登場シーンだぞ」

「いきなり呼び出されたのは、そんな理由だったんですね・・・」


奥から出てきたのは、アッシュ警備長だ。東の警備長で、コボル警備長が怪我をして療養に入ってからは北の警備長も兼任している。軽々と呼び出せる人物ではないはずなのだが、剣精がよからぬ力を使ったのだろう。


「フフフ。アッシュよ、足の運びが重いぞ。最近は紙の仕事ばっかりで、体を動かしていないんじゃないか」

「まぁ・・・否定はできないですけどね」

「そこで、二人の可愛い剣士たちを、戦わせることで同時にいたわる私! すごいものがある!」


えへんと胸を張る剣精の表情に、僕たちは顔を見合わせる。


「可愛いっていうのは、ちょっと・・・僕も男ですし」

「僕も、いい歳だしなぁ・・・」

「つべこべ言うな! やるのか、やらないのか!」

「・・・」

「・・・」

「やるんだな、では、それぞれ木剣をとれ」


いつも剣精と戦っているときと違って、真剣ではなくナイフ型の木剣を持つ。二三回降って、感覚を確かめた。真剣を使わないということは、僕たちでは事故が起こりうるということか。


「・・・」

「・・・」


何も言わずに、僕たち二人は必然とばかりに構えた。


「準備はいいかい? 実は、僕もレイル君と手合わせをしたいと思っていたんだ」

「僕は、戦えれば誰でもいいです」

「あれれ、片思いだったか・・・」


アッシュ警備長は、笑って頭を掻く。


「やってみればわかるが、アッシュの方が数段上だぞ。アッシュ、怪我をさせないようにな」


想像の範疇ではあった。相手が剣精じゃなくても、まだまだ僕が勝てる相手は少ないだろう。ましてや、相手がアーツ・ホルダーの警備長ならなおさらだ。だが、だからこそ楽しみではある。


「では、開始!」


剣精の掛け声とともに、僕たちの距離が一気に詰まる。二人とも、合図の前にマナの準備をしていた証拠だ。

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