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アーツ・ホルダー  作者: 字理 四宵 
第一章 山岳の戦い
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山岳の戦い -8

崩れ落ちていく大黒猿を尻目に、僕はつり橋に目を向けた。幸運なことに、大黒猿の群れはまだこちらに届いていなかった。おそらく、僕の戦いを見物していたのだろう。中途半端なところで、進もうか退こうか迷っているようだった。


「・・・」


足の指で握ったナイフで縄を切るのは一苦労だったが、やつらが引き返す前に、なるべく多くを谷底に落としたかったので、急いでロープを切断すると、支えを失ったロープが、壁面に叩きつけられた。多くの大黒猿達も、ロープにつかまったまま激突していった。即死か、生きていても谷底へ落下して死ぬだろう。大黒猿の原種の習性を考えると、群れで行動するはずだ。生きている個体数は多くは残っていないだろう。


後は、下山をするだけだ。こんな腕・・・いや、体で、弟を連れて山を下りられるか、不安はあったが、ゆっくりもしていられない。


「さあ、街へいこ・・・」


口の中で、舌が、凍り付いた。弟を置いた辺りには、靴が片方だけ横たわっていた。


「あ・・・ああ・・・そんな・・・」


大声で喉が枯れるまで弟の名前を呼んだが、自分の声だけがこだまとなって帰ってくる。


「どうすれば・・・どうすれば・・・」


その瞬間、気が緩んだのか、僕が体に保っていたマナは、すべて霧散した。力の源を失った両足は、ガクガクと震え始めた。


父親の、別れ際の言葉が耳に戻ってくる。


「後を・・・弟を・・・頼んだぞ・・・」


長男として、残された弟の保護者として、父親に託された願いを・・・僕は、守れなかった。油断した。目を離してしまった。

喉をカラカラにしながら、恐る恐る崖の下を見たが、谷底には大黒猿の死体以外は何も見当たらなかった。


「さらわれた・・・? 森へ、逃げた・・・?」


山道を目指そうとして、すぐに思いとどまり森の方向へ向かおうとするが、また足が止まってしまう。

大黒猿との闘いでは微塵も迷わなかったのに、今では考えがまとまらない。

通り過ぎようと思っていた森と山道が、とてつもなく広く見える。


「一人じゃ、無理だ。助けを・・・呼ばなきゃ・・・街のみんなで、探してもらわないと・・・」


そう決めて、僕はズボンから靴を取り出して、山を下り始める。気力が尽きて霧散したマナは、上手く回復しないままだ。

両腕の激痛を抱えながら、3時間。一滴の水も呑まずに山道を走った。

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