10-3
「うおおお! レイル、覚えてろ!」
冴えない悪役のような台詞を置いて、ジャヴさんは駆け出した。
黒馬も、間を置かずにそれを追う。
「ジャヴさん! 狭い路地に入ってください! こいつは小回りが利かないはずです!」
僕の声が聞こえたのか聞こえなかったのか、ジャヴさんは急カーブして隘路に入った。
僕の目の前を、黒馬が通りすぎる。生傷だらけの顔に、怒りの形相が見て取れる。血走った目に、僕は映っていないようだ。
「う・・・」
改めて、その大きさに驚愕する。顔だけで僕の体ほどの大きさがあるだろう。見慣れた動物だけに、そのスケールがもたらす違和感は大きい。黒馬が首を振る動きだけで、独特の獣臭が舞い上がる。
ぼやぼやとはしていられない。僕も、屋根の上を走って黒馬を追いながら、対策を考える。ジャヴさんの斧でかすり傷程度しかつけられない相手に、僕のナイフが通るだろうか・・・いや、目を狙えば・・・などと考えていると、下の方からジャヴさんの声が聞こえる。
「こいやこらぁ!」
屋根の上から路地を見ると、両手に持った斧を掲げて対峙しているところだ。
「ジャヴさん! 馬は正面からだと、噛む攻撃がほとんどです! くれぐれも、後ろに回らないようにしてください!」
「おっし! わかったぜ、山育ち!」
正面にいる限り、致命的な攻撃は受けないだろう。馬の攻撃で本当に恐ろしいのは、後ろ脚から繰り出される突きのような蹴りだ。多少角度があっても、前足で全身を捻って出す蹴りは、通常の馬でさえ死者が出る威力なのに、あのサイズの蹴りが人間に当たったら、人としての原形が残るのかも怪しい。
じりじりと、距離を詰めようとするジャヴさんに対して、黒馬に躊躇はなかった。
「うおお!」
ジャヴさんが振り上げた斧を意に介さず、黒馬は前に進む。
「あっ!?」
僕は、足下の光景に思わず叫ぶ。
ジャヴさんが、首振りで吹き飛ばされて、壁に叩きつけられた。
体重差がこれだけあると、あんな行動で大きなダメージになるのか・・・。首振りだけで大男が吹き飛ばされるとは、想定外だった。
「ぐ・・・」
ジャヴさんは、片手を石畳について、立ち上がろうとするが、黒馬の動きはそれよりも早かった。
「まずい!」
倒れたジャヴさんを踏みつけようと、黒馬は前足を上げる。あの体重なら、さほど勢いをつけなくても、上に乗られただけで致命傷になりうる。
僕は、とっさに屋根から飛び降りた。耳が空気を切る音が聞こえる。この勢いで、ナイフを突き刺せば、あるいは・・・。




