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アーツ・ホルダー  作者: 字理 四宵 
第十章 黒馬事件
88/200

10-3

「うおおお! レイル、覚えてろ!」


冴えない悪役のような台詞を置いて、ジャヴさんは駆け出した。

黒馬も、間を置かずにそれを追う。


「ジャヴさん! 狭い路地に入ってください! こいつは小回りが利かないはずです!」


僕の声が聞こえたのか聞こえなかったのか、ジャヴさんは急カーブして隘路に入った。

僕の目の前を、黒馬が通りすぎる。生傷だらけの顔に、怒りの形相が見て取れる。血走った目に、僕は映っていないようだ。


「う・・・」


改めて、その大きさに驚愕する。顔だけで僕の体ほどの大きさがあるだろう。見慣れた動物だけに、そのスケールがもたらす違和感は大きい。黒馬が首を振る動きだけで、独特の獣臭が舞い上がる。

ぼやぼやとはしていられない。僕も、屋根の上を走って黒馬を追いながら、対策を考える。ジャヴさんの斧でかすり傷程度しかつけられない相手に、僕のナイフが通るだろうか・・・いや、目を狙えば・・・などと考えていると、下の方からジャヴさんの声が聞こえる。


「こいやこらぁ!」


屋根の上から路地を見ると、両手に持った斧を掲げて対峙しているところだ。


「ジャヴさん! 馬は正面からだと、噛む攻撃がほとんどです! くれぐれも、後ろに回らないようにしてください!」

「おっし! わかったぜ、山育ち!」


正面にいる限り、致命的な攻撃は受けないだろう。馬の攻撃で本当に恐ろしいのは、後ろ脚から繰り出される突きのような蹴りだ。多少角度があっても、前足で全身を捻って出す蹴りは、通常の馬でさえ死者が出る威力なのに、あのサイズの蹴りが人間に当たったら、人としての原形が残るのかも怪しい。

じりじりと、距離を詰めようとするジャヴさんに対して、黒馬に躊躇はなかった。


「うおお!」


ジャヴさんが振り上げた斧を意に介さず、黒馬は前に進む。


「あっ!?」


僕は、足下の光景に思わず叫ぶ。

ジャヴさんが、首振りで吹き飛ばされて、壁に叩きつけられた。

体重差がこれだけあると、あんな行動で大きなダメージになるのか・・・。首振りだけで大男が吹き飛ばされるとは、想定外だった。


「ぐ・・・」


ジャヴさんは、片手を石畳について、立ち上がろうとするが、黒馬の動きはそれよりも早かった。


「まずい!」


倒れたジャヴさんを踏みつけようと、黒馬は前足を上げる。あの体重なら、さほど勢いをつけなくても、上に乗られただけで致命傷になりうる。

僕は、とっさに屋根から飛び降りた。耳が空気を切る音が聞こえる。この勢いで、ナイフを突き刺せば、あるいは・・・。

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