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アーツ・ホルダー  作者: 字理 四宵 
第十章 黒馬事件
87/200

10-2

「ジャヴさん、犠牲者が・・・」

「あぁ。人食いか・・・厄介だな」

「でも、いくらなんでも、そう連続して食べられないはずです。今のうちに仕留めないと・・・」


残り1km。輪郭がはっきりした。逃げ惑う人たちをかきわけて走る。

残り500m。体毛の濃い馬のようだ。何本か、体毛に矢が絡まっているのが見える。

残り100m。辺りに人の気配がなくなってきた。家の中に避難したか、遠くへ逃げたかだが、僕たちとしては動きやすくて助かる。

残り20m程度。ギリギリ、手斧が届く距離になったところで、僕とジャヴさんは建物の影に隠れた。

黒馬は、しきりに建物に体当たりをしたり、石畳をひっくり返したりして、落ち着きがない。正気を失っているのだろうか。

辺りを見渡したが、笛番の姿が見当たらない。やられてしまったのか、避難したのか・・・。


「よし、ここは俺の距離だな」


そういって、ジャヴさんは手のひらに唾を吐いて手斧を握る。二人とも、全速力でかけてきたので息が乱れているが、そんなことを言っている場合ではない。


「ヒャアッハー!」


物陰から勢いよく飛び出すと、高速で回転する手斧が、黒馬の背後から首元へ向かっていく。馬の頭には、ほとんど死角がない。投擲による攻撃も、どこまで通用するのか、わからない。

一投目は首をかしげて、たてがみを刈り取るだけだった。だが、ジャヴさんは続く二投目を即座に胴体めがけて投げていた。

これに反応しきれなかった黒馬は、手斧を胴体に食らうことになった。


「よしっ」


ガッツポーズをとるジャヴさん。黒馬は、熊のような低い声で雄たけびを上げる。

手斧は、黒馬の皮膚に若干傷をつけたようだが、刺さることなく、地面に落ちた。


「嘘だろ・・・刃の部分が当たったはずだぜ」

「変異して、皮膚か毛が固くなっている・・・?」

「くそ、もう一度・・・今度は、脚だ」


背中から斧を抜くと、再び物陰から斧を放る。


「ヒャアアアッハアーー!」

「あの、その声出すと気付かれるんじゃ・・・」


案の定というべきか、黒馬は跳躍をして二つの手斧を飛び越えた。着地とともに、振り返ってこちらを見て、走り出した。


「おい・・・こっちに来てないか」


間違いなく、こちらへ向かっている。僕たちが標的なのは、言を俟たないだろう。


「やべえ! 逃げるぞ! って、あれ?」


僕は、振り返って黒馬を見ている。


「お、おい、何してるんだよ」

「あの速さなら、走っても追いつかれます・・・それなら、屋根に逃げましょう」

「屋根? そうか、屋根なら追いつかれないか。よし、レイル、こい!」


ジャヴさんは両手を組んで、臍の前に出す。飛び乗れということか。


「お願いします!」

「おう!」


飛び乗って片足をジャヴさんの手に乗せると、すごい力で加速される。もともと背の高いジャヴさんに打ち上げられ、僕は難なく屋根まで上ることができた。


「はっはっは。お前、軽いなぁ。・・・で、俺は?」

「いや、そんなこと言われても・・・。あ、天井にはロープとかはなさそうです」

「お前、そういうところあるよな・・・」


自分で足場を組んでおいて、随分ないいようだと思う。

そうこうしているうちに、地響きがするようになってきた。黒馬が近づいている。やはり、僕のいる屋根まで、少し立ち上がれば届くような大きさだ。揺れる瓦を見て、僕は黒馬の質量に恐怖を覚える。


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