10-2
「ジャヴさん、犠牲者が・・・」
「あぁ。人食いか・・・厄介だな」
「でも、いくらなんでも、そう連続して食べられないはずです。今のうちに仕留めないと・・・」
残り1km。輪郭がはっきりした。逃げ惑う人たちをかきわけて走る。
残り500m。体毛の濃い馬のようだ。何本か、体毛に矢が絡まっているのが見える。
残り100m。辺りに人の気配がなくなってきた。家の中に避難したか、遠くへ逃げたかだが、僕たちとしては動きやすくて助かる。
残り20m程度。ギリギリ、手斧が届く距離になったところで、僕とジャヴさんは建物の影に隠れた。
黒馬は、しきりに建物に体当たりをしたり、石畳をひっくり返したりして、落ち着きがない。正気を失っているのだろうか。
辺りを見渡したが、笛番の姿が見当たらない。やられてしまったのか、避難したのか・・・。
「よし、ここは俺の距離だな」
そういって、ジャヴさんは手のひらに唾を吐いて手斧を握る。二人とも、全速力でかけてきたので息が乱れているが、そんなことを言っている場合ではない。
「ヒャアッハー!」
物陰から勢いよく飛び出すと、高速で回転する手斧が、黒馬の背後から首元へ向かっていく。馬の頭には、ほとんど死角がない。投擲による攻撃も、どこまで通用するのか、わからない。
一投目は首をかしげて、たてがみを刈り取るだけだった。だが、ジャヴさんは続く二投目を即座に胴体めがけて投げていた。
これに反応しきれなかった黒馬は、手斧を胴体に食らうことになった。
「よしっ」
ガッツポーズをとるジャヴさん。黒馬は、熊のような低い声で雄たけびを上げる。
手斧は、黒馬の皮膚に若干傷をつけたようだが、刺さることなく、地面に落ちた。
「嘘だろ・・・刃の部分が当たったはずだぜ」
「変異して、皮膚か毛が固くなっている・・・?」
「くそ、もう一度・・・今度は、脚だ」
背中から斧を抜くと、再び物陰から斧を放る。
「ヒャアアアッハアーー!」
「あの、その声出すと気付かれるんじゃ・・・」
案の定というべきか、黒馬は跳躍をして二つの手斧を飛び越えた。着地とともに、振り返ってこちらを見て、走り出した。
「おい・・・こっちに来てないか」
間違いなく、こちらへ向かっている。僕たちが標的なのは、言を俟たないだろう。
「やべえ! 逃げるぞ! って、あれ?」
僕は、振り返って黒馬を見ている。
「お、おい、何してるんだよ」
「あの速さなら、走っても追いつかれます・・・それなら、屋根に逃げましょう」
「屋根? そうか、屋根なら追いつかれないか。よし、レイル、こい!」
ジャヴさんは両手を組んで、臍の前に出す。飛び乗れということか。
「お願いします!」
「おう!」
飛び乗って片足をジャヴさんの手に乗せると、すごい力で加速される。もともと背の高いジャヴさんに打ち上げられ、僕は難なく屋根まで上ることができた。
「はっはっは。お前、軽いなぁ。・・・で、俺は?」
「いや、そんなこと言われても・・・。あ、天井にはロープとかはなさそうです」
「お前、そういうところあるよな・・・」
自分で足場を組んでおいて、随分ないいようだと思う。
そうこうしているうちに、地響きがするようになってきた。黒馬が近づいている。やはり、僕のいる屋根まで、少し立ち上がれば届くような大きさだ。揺れる瓦を見て、僕は黒馬の質量に恐怖を覚える。




