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アーツ・ホルダー  作者: 字理 四宵 
第九章 剣精の修行 その二
86/200

10-1

剣精に攻撃を教わり始めてから、数週間後。謹慎が解けたディランさん、ララベルさん・・・いや、ララベル隊長代理、ジュリアさんが日勤を務めて、僕とジャヴさんが夜勤についていた。

その日は、剣精のアーツ試験が夜の間にも予約が入っているとのことで、僕はジャヴさんと通常通りの夜勤に勤めていた。

日勤だったララベル隊長代理と、相変わらず寒い夜になりそうだと、少し立ち話をして夜勤の引継ぎをしてすぐに、風に乗って笛の音が聞こえてきた。まだ夕暮れもそらに色を残した、人通りのある時間帯だ。


「今のは・・・」


僕は、わかり切った同意を求めてジャヴさんの方を向く。


「笛番の笛だな。だけど、珍しい方から聞こえてきたな。・・・まぁ、とりあえず急ぐか」


走り出したジャヴさんに合わせてついていく。ジャヴさんが言った珍しい方向とは、国の北門のことだ。首都は山脈に囲まれていて、東西南北に城門を持つ。その中でも一番利用者が少ないのが、北門なのだ。

城門の外には山脈が広がっていて、北方からくる人と言えば・・・例えば、僕のような山の民と、麓に住むわずかな人たちくらいだ。


「あれは・・・なんだ。大きな黒いものがいるような・・・」

「馬に見えますね」

「ここから見えるのか。目がいいな」

「山育ちなので・・・あっ、動きましたね」


動作を確認できたことによって、馬だということの確証が取れた。いななく動きとシルエットは、誰もが馬を連想するだろう。問題は、サイズだ。


「大きいですね・・・」

「だよなぁ・・・」


黒馬のサイズは、周りの人間に比べて、異様なものがあった。足一本が、大人の背以上の高さがある。よく見れば、建物の屋根に頭が届きそうだ。

そして、その足も太く異様にたくましい。遠目に見ても、とてつもない力を持っていそうだ。


「馬っていうより、象だな。馬車ごと背中に乗せられそうだ」

「象? 象ってなんですか?」


走りながら、僕とジャヴさんは会話を続ける。


「そういうでかい動物がいる・・・らしいんだよ。前にジュリアが言ってた」

「へぇ・・・ジュリアさんは物知りなんですね」

「旅行好きだから、色々な国に行っているみたいだな。世界中のいい男を見つけるとかなんとか・・・」

「あぁ、そういう・・・」


寮では勤務の後にジャヴさんが部屋に来ては酒を飲むせいで、最近は少しずつ、そういう話にも慣れてきた。


「それで、あれは象ではないんですか」

「あぁ、たぶんな。象ってのは、鼻がでかくて、そこから物を吸い込んだりするらしい。それで、とんでもなく大きくて、一日何百キロも飯を食うんだと」

「えぇ・・・そんな生き物、本当にいるんですか」

「いや、ジュリアが言ってたんだよ! 後で聞いてみろって!」

「また騙されてるんじゃないんですか・・・」

「えっ、俺、騙されたことあったの?」

「・・・」


僕は、返答を避けた。

そんな話をしているうちに、徐々に距離がつまってきた。街の人々は、僕たちと逆方向へ走っている。皆の形相は、必死なものだった。

このままでは、パニックになるのは時間の問題だろう。


「やばい! やっぱり、あいつはやばいやつだ」


ジャヴさんが、叫ぶ。

僕も同じ思いだ。遠くからでも、黒馬が人間を丸のみにしているのが見える。

甲高い悲鳴が、遅れてやってきた。

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