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「ええと、アーツ・ホルダーが、複数のアーツを持つことはあるんですか」
僕は、頭の手をどうにかしたくて、無理やりにでも質問をだす。
「ある。が、複数のアーツを登録するメリットは、それほど多くないな」
剣精は答えるが、僕の頭から手を離そうとしない。
「そうなんですか?」
「アーツ・ホルダーになって、国から補助が出るようになれば、それで金銭的には暮らしていけるからな。複数のアーツを所有して狙われる確率があるデメリットを考えると、微妙なところだ。私としては、残念な話だが」
「アーツ・ホルダーの資格を取らない人もいれば、資格を取ったら次のアーツを隠す人もいる・・・」
「うむ。レイルは、新しいアーツができたら、ちゃんと見せに来るんだぞ」
「はい。・・・できれば。でも、僕がアーツを作れたのは、偶然に負うところが大きいので、ちょっと自信がないです」
「なに、そういう人間は多い。長年剣の修行と研究をしていた人間が、死線を超えて、特殊な状況におかれて初めて技を作る機会に会う・・・とかな。何がきっかけになるかは、わからないものさ」
「そうですか・・・。でも、もうあんな状況は嫌だな」
両腕を骨折し、それでもナイフ一本で戦わなければいけない状況は、一度体験すれば十分だ。
剣精の手が頭から離れ、僕の背中をとん、と叩く。
「大変だったな。治ったからよかったものの、剣を握れなくなったら大変だ」
こちらをニコニコと見ている。こんな時でも、剣精は剣のことを考えるのかと思うと、少し呆れてしまう。が、そんな人間でなければ、剣精にはなれないのかもしれない。
「よし、菓子でもつまむか」
「え、お菓子?」
「あぁ。そこにあるぞ。気づいていなかったのか」
僕は部屋の端に寄せてある机に、小皿が置いてあるのを見つけた。蓋を取ると、確かにお菓子が置いてある。
剣精は、部屋に入った時に見つけていたのだろう。
「はい。・・・食べていいですか?」
「皿に乗ってるんだから、いいんだろう」
剣精も、一つ手に取って口に入れる。
「剣精は、食事をとるんですね」
「本来は必要ないな。だが、剣精という存在は、他の精霊と違って生身があるから、食事することはできる。ただ、必要がないと、どうしても忘れてしまいがちになるな」
サクサクと焼き菓子をほおばる仕草は、久しぶりにものを食べるとは思えない。
「む、この焼き菓子はうまいぞ。一つ食べてみろ」
そういうと、僕の口に押し込む。なすがままなのは悔しいが、首の動きを先読みされて、口の位置を先回りして菓子を入れられる。はたから見ると、素直に口に入れているように見えるのだろう。
仕方なく、咀嚼する。確かに、使われているジャムは新鮮で上質なものだ。作られて時間が経っているにも関わらず、食感も保たれている。
ついこの間までは、山で質素な暮らしをしていたのに、今では王宮の菓子をつまんでいるのが、自分でも不思議だった。
弟にも・・・こんな上質なものを食べさせたかった。
つい、そんなことを考えてしまう。
ふと、剣精の視線に気づく。いつの間にか、菓子を食べ終えて、額に手を当てて僕の方を見ていた。
「・・・なんですか、じろじろ見ないでください」
「ふふっ、一丁前に。・・・よし、食べ終わったら、続きをするか」
僕は頷いて、急いで残りの菓子を口に入れる。
剣精は、剣を持つ。僕は鞘からナイフを抜いて後に続く。
その後も、攻撃を交えた訓練は続いた。剣精は、僕にダメなところがあれば、全く同じ動きをゆっくりと再現してくれる。
上達しているのかはわからなかったが、体を動かす経験と、理屈が一つ一つ、僕に組み込まれていくのは楽しかった。




