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アーツ・ホルダー  作者: 字理 四宵 
第八章 代謝
82/200

9-1

剣精が王子の命令通り王宮に着た初日。

僕と剣精は、王宮の一室に通された。応接室の予備なのか、室内といえど、僕の寮がすっぽり入るくらいの大きさがある。暖炉に薪がくべてあり、神殿と違って暖かくて快適だ。

武器の一式が神殿から運ばれてきているのを見ると、複数人が設置を手伝ったのだろう。


「うわ・・・広い。これなら自由に動けそうですね」

「広いのはいいが・・・レイル、壁や調度品に傷をつけたら、一生かかっても弁償できないかもしれないぞ」

「う・・・確かに」


大理石の床を、どれだけ強く踏んでいいのだろうか。安物の革靴で、つま先を叩いてみる。


「冗談だ。あの王子がそんなけち臭いことを言わないだろう」

「そう願います。それでは・・・剣精、攻撃を教えてください」


僕は、ナイフを手に取り構える。リンダさんからのダメージは抜けている。


「む、いいだろう。まだまだ早いとは思っていたが・・・事情が事情だからな。しょうがない」


剣精は木刀を担ぐと、ため息交じりに話し始めた。手を下げるようなジェスチャーをしたのを見て、僕は武器を降ろす。


「まず、攻撃にもいろいろ種類がある。最終的な目的は色々あるだろうが、まず最初に攻撃の目的は、相手を攻撃不能にすることだ。ここまではいいな?」


僕は頷く。以前のように、理屈から説明をするようだ。


「よし。では、攻撃不能の種類についてだ。相手が、自分に向かってこないようにするのが攻撃不能だとして、いくつかパターンがある」

「・・・」


「まずは、戦意喪失や判断の混乱だな。例えば状況が不利になったとか、依頼主から攻撃の指示が取り下げられたとかだ。意図的にこのような状況を作り出している笛番の笛は、環境を利用した、一種の攻撃といえる」

「ふむふむ」


確かに、今まで笛を吹くことで、多くの相手の行動パターンが強制的に変わった。逆を言うと、笛がなければ、身を守れなかったことも多い。


「次に、束縛だ。相手の力を上回る力や拘束で、抑えつける。関節技での抑え込みや、ロープでの捕縛がこれにあたる」


今度は、ジャヴさんが斧を壁に打ち付けて賊の動きを封じたのを思い出して、頷く。


「次に、マナの消失だな。あまりよくあることではないが、体からマナがなくなれば、人間はほとんど心臓を動かすのに精いっぱいになって動けなくなる。ペース配分を考えないような相手なら、粘りに粘って、マナが枯渇するのを待つ方法もある」


これも、体験がある。大黒猿との戦いでは、とても消耗をしたのを覚えている。


「と、ここまでは比較的平和な部類だ。平和と言っても、相手にとってだから、こちらにとって安全というわけではない。束縛などは、こちらにゆとりがある場合や、相手を生かしておく必要のある場合にすることで、回りくどい方法とも言える」

「はい」


「では、手荒い方法もいこう。まずは、意識の喪失だ。気絶というやつだな。酸欠や脳震盪などの方法があるから、後から教えよう」


剣精は、よくわからないジェスチャーをいくつか見せる。あの動き一つ一つが、相手を気絶させるものなのだろうか。


「次は、痛みによるものだ」

「痛み・・・」

「シンプルだが、効果は誰もが知っている通りだ。メリットは、相手をさほど傷つけないこと。デメリットは、短時間で回復することと、訓練をした人間なら、マナの調整やアドレナリンで、ある程度耐えられることだ」


これも、大黒猿の時に骨折した両手を抱えて戦った記憶があるので、よく理解できた。


「次に、器官の停止・破壊だ。剣だけを使って攻撃する相手は、両手を切り落とせばそれですむ。足を折れば、追ってこれなくなる。喉をつぶせば、呼吸ができなくなり動けなくなる。なんだかんだで、一番多い手段だ」

「う・・・なるほど」


淡々と述べる剣精に、かえって恐ろしさを感じる。彼女にとって、どこまでが日常的な行為なのだろうか。


「例えば、シンプルに相手の命をとるというのは、どれに当たるんですか」

「複合した結果だな。分類でいえば、意識の消滅、マナの消失、器官の停止だ。だからこそ、確実だといえる。そもそも、攻撃はほとんどが結果を複合することになる。シンプルに一つのことだけで相手を行動不能にするのは難しい」

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