8-6
「わかりました・・・では、質問を変えます」
「レイル君?」
ララベルさんが、不安そうに僕の方を見る。僕は、何も言わずにうなずくだけだった。今からすることを言えば、きっと止められるからだ。
僕は、首に巻いていたマフラーをほどいて手に取ると、脚にマナを集中させる。
「・・・」
剣精は、何も言わずに僕を見ている。余裕か興味か、恐らくその両方だ。
邪魔なので地面に置くようにみせて、僕は、両手でマフラーを外した・・・ように見せて、渾身の跳躍で、剣精を飛び越す。少々飛びすぎたのか、天井につま先がかすった。
マフラーを持つ手は強く引かず、残し気味に飛ぶと、ちょうど剣精の首にかかるようになるはずだ。
「レイル君っ・・・!」
ララベルさんの声が僕に届いた時には、僕はすでに着地の体勢に入っていた。このまま両手を強く引けば、自然と剣精を背負う地蔵担ぎの体勢になる。 余計な動作がない、使いやすい技だ。
つま先が地面に到着する。跳躍に使うために溜めた脚のマナを解放し、着地の勢いを殺さないようにする。そのまま腰を落とせば・・・技が決まる。
だが、いつまでたっても背中に剣精の体重がかかることはなかった。空振りをしたような感覚に違和感を覚える。
おかしい。例えば手刀などで首にマフラーが巻かれるのを防いでも、何かしらの感触はあるはずだ。
「違和感を感じたら、様子を見ずに即、体勢を立て直せ。命取りになるぞ」
目の前に、剣精が現れた。いや、空から降ってきたように見えた。
僕の頭に、マフラーがかかる。背中合わせになるはずの剣精が、目の前に現れ、向かい合わせになっているということは・・・
僕が前転宙がえりで剣精を飛び越した後、剣精は後転宙がえり(バク転)で僕の上を超えたということか。
「・・・」
予想外の返しに驚いて、声も出ない。ララベルさんも、同じようだ。
だが、僕が知りたかったのは、この先のことだ。
「剣精、この技を、アーツとして申請できますか」
「レイル・・・」
剣精は、少し寂しそうな顔をして僕を見る。
「答えてください」
「いや・・・無理だ。すでに、今の技は登録されている」
僕の勘はあっていたようだ。すでにこのアーツが登録されているということは、やはり犯人はアーツ・ホルダーか。
「言っておくが、アーツを継承や伝授した可能性もあるぞ」
僕の考えを読んでいるように、剣精がいう。
「だけど、関係者には違いないですよね」
僕の問いを、剣精は黙って否定しない。
「それを知って、犯人のめどがついたら、どうするんだ。コボルの敵を、取りに行くのか」
「それは・・・!」
そうだと言おうとして、口を開く前に、剣精は機を制する。
「許さないのは、まだいい。だが、敵なんてものは・・・むなしいよ、レイル」
僕とララベルさんは、ハッと息を呑んだ。一瞬だが、百年以上存在して、僕たちよりもずっと年上のはずの剣精の表情が、見た目通りの、ララベルさんよりも若い子のように見えたのだ。




