8-5
「い、いつの間に・・・」
驚く僕たち二人を意に介さず、剣精は腕組をしている。
「久しいな、ララベル」
「・・・どうも・・・」
「今のは、よかった。なかなかに、甘酸っぱいものを見せてもらった・・・堪能したぞ」
「くっ・・・」
ララベルさんは、唇を噛む。
「レイルは、制服か」
「はい、軍部に呼ばれまして」
「うむ。やはり、男は制服だな。なぁ、ララベル」
「・・・まぁ・・・ソッスネ・・・」
ララベルさんの返答は、どこか精彩を欠く。
「だが、これはサイズが合ってなくないか?」
「はい。男物だと、これが一番小さいものらしいんですけど、ちょっと大きいですね」
「うむ。あまり布が余ると、掴まれやすくなるからな。気をつけろ」
「わかりました」
「うむ。それで、本題だが・・・治療室に入っているのは・・・誰だ?」
僕とララベルさんは顔を見合わせて、二人で説明をはじめた。
「そうか・・・コボルのぼうずが・・・」
「ぼうず・・・」
衝撃的な発言に、ララベルさんは言葉を失う。僕も、この言葉を聞くのは二回目だが、同じ気持ちだ。コボル警備長をぼうずと呼べるのは、世界で何人いるのだろう。
「・・・助かるのか」
「王族の治療部隊が、応援に来てくれています。可能性は、ずっとあがったと思います・・・」
「そうか・・・」
剣精は、長いまつ毛を合わせて頷く。
「それで、剣精はどうしてここに?」
「うむ。それはだな」
「ひよっこの癖に、訓練をサボる男を、捕まえにきたんだ」
「え? いや、それは・・・すみません」
「ふっ、冗談だよ。連絡は受けている。こいつが、そうサボるとも思えないし」
「でも、剣精様が人里に降りてくるなんて、珍しいですね」
「冬眠できなかった熊のように言うな」
「ひょっとして、レイル君が心配で」
「う、いや、まさか。少し小腹が空いていただけだ」
「小腹が空いて、病院に・・・?」
「そもそも、お腹が減らないんじゃなかったでしたっけ」
「ぐっ」
言葉に詰まる剣精。僕もララベルさんも、勝ち戦に乗っているようなものだった。
「笛が鳴ったから、心配で見に来てくれたんですね。ありがとうございます」
「ま、まぁ、この前も笛が鳴った時にはお前が絡まれていたから・・・」
「剣精様、レイル君には甘いんですね・・・」
「・・・うるさっ! お前らうるさっ! よし、私は帰るかな」
とらえきれない動きで僕たちから離れると、剣精はそそくさと歩き始めた。
僕は、その背中に声をかける。
「剣精、一つ質問があります」
「・・・なんだ」
振り返った剣精は、僕の表情を見て、真面目な質問だと思ったのだろう。剣精も、真剣な面持ちで僕に目を合わせる。
「コボル警備長を襲った人間は、おそらくアーツ・ホルダーだと思うんですが・・・素性を知りたいと言ったら、教えてくれますか」
ララベルさんが、ハッと息を呑む。
「・・・私は、アーツを保護する義務がある。お前の気持ちはわかるが・・・口にするわけにはいかん」
「・・・コボルさんを殺そうとした犯人ですよ」
「たとえ誰を殺そうと、だ・・・わかってくれ」
「・・・」
「レイル君・・・」




