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アーツ・ホルダー  作者: 字理 四宵 
第八章 代謝
77/200

8-5

「い、いつの間に・・・」


驚く僕たち二人を意に介さず、剣精は腕組をしている。


「久しいな、ララベル」

「・・・どうも・・・」

「今のは、よかった。なかなかに、甘酸っぱいものを見せてもらった・・・堪能したぞ」

「くっ・・・」


ララベルさんは、唇を噛む。


「レイルは、制服か」

「はい、軍部に呼ばれまして」

「うむ。やはり、男は制服だな。なぁ、ララベル」

「・・・まぁ・・・ソッスネ・・・」


ララベルさんの返答は、どこか精彩を欠く。


「だが、これはサイズが合ってなくないか?」

「はい。男物だと、これが一番小さいものらしいんですけど、ちょっと大きいですね」

「うむ。あまり布が余ると、掴まれやすくなるからな。気をつけろ」

「わかりました」

「うむ。それで、本題だが・・・治療室に入っているのは・・・誰だ?」


僕とララベルさんは顔を見合わせて、二人で説明をはじめた。


「そうか・・・コボルのぼうずが・・・」

「ぼうず・・・」


衝撃的な発言に、ララベルさんは言葉を失う。僕も、この言葉を聞くのは二回目だが、同じ気持ちだ。コボル警備長をぼうずと呼べるのは、世界で何人いるのだろう。


「・・・助かるのか」

「王族の治療部隊が、応援に来てくれています。可能性は、ずっとあがったと思います・・・」

「そうか・・・」


剣精は、長いまつ毛を合わせて頷く。


「それで、剣精はどうしてここに?」

「うむ。それはだな」

「ひよっこの癖に、訓練をサボる男を、捕まえにきたんだ」

「え? いや、それは・・・すみません」

「ふっ、冗談だよ。連絡は受けている。こいつが、そうサボるとも思えないし」

「でも、剣精様が人里に降りてくるなんて、珍しいですね」

「冬眠できなかった熊のように言うな」

「ひょっとして、レイル君が心配で」

「う、いや、まさか。少し小腹が空いていただけだ」

「小腹が空いて、病院に・・・?」

「そもそも、お腹が減らないんじゃなかったでしたっけ」

「ぐっ」


言葉に詰まる剣精。僕もララベルさんも、勝ち戦に乗っているようなものだった。


「笛が鳴ったから、心配で見に来てくれたんですね。ありがとうございます」

「ま、まぁ、この前も笛が鳴った時にはお前が絡まれていたから・・・」

「剣精様、レイル君には甘いんですね・・・」

「・・・うるさっ! お前らうるさっ! よし、私は帰るかな」


とらえきれない動きで僕たちから離れると、剣精はそそくさと歩き始めた。

僕は、その背中に声をかける。


「剣精、一つ質問があります」

「・・・なんだ」


振り返った剣精は、僕の表情を見て、真面目な質問だと思ったのだろう。剣精も、真剣な面持ちで僕に目を合わせる。


「コボル警備長を襲った人間は、おそらくアーツ・ホルダーだと思うんですが・・・素性を知りたいと言ったら、教えてくれますか」


ララベルさんが、ハッと息を呑む。


「・・・私は、アーツを保護する義務がある。お前の気持ちはわかるが・・・口にするわけにはいかん」

「・・・コボルさんを殺そうとした犯人ですよ」

「たとえ誰を殺そうと、だ・・・わかってくれ」

「・・・」

「レイル君・・・」

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