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アーツ・ホルダー  作者: 字理 四宵 
第八章 代謝
76/200

8-4

ジャヴさんとジュリアさんが出かけている間、僕達は病室の前まで戻り、再びララベルさんと二人きりになった。 長いベンチに腰掛け、コボル警備長の回復を待つ。


「まずは、事態が好転してよかったですね」

「・・・うん」

「・・・」


いつものSSLの時と違い、会話が続かない。


「ええと、コボル警備長は、ご家族はいらっしゃるんですか」

「地方にご実家があるようだけど・・・、結婚はしてないよ。寮にも住んでいないから、一人暮らしなんじゃないかな」


僕は頷く。寮に住んでいるのは、僕の知る限りではジャヴさんと僕だけだ。


「・・・そうですか。そういうの、何も知らなかったな」

「コボル警備長のご実家に、最悪のお知らせを出すようなことにならなくて、本当によかった・・・」


ララベルさんは、頬をぬぐう。涙を流していたのだろうか。蠟燭だけが頼りの薄暗い廊下では、よくわからなかった。少し考えにふけっていたようだがすぐに、慌てて僕の手を取る。


「あ・・・、レイル君・・・ごめんね・・・私、レイル君のこと考えずに・・・」


ララベルさんが言わんとしているのは、僕の家族のことだろう。僕は、大丈夫だという気持ちを表すために、無理にでも少し笑った。


「いいんです。僕も、同じ気持ちです」

「うん・・・」


手をつないだまま、静かさと緩慢さを含んだ時が流れる。蝋燭が光になる音すら聞こえそうなほど、静かだ。

最初のうちは、もじもじと落ち着かない動きをしていたララベルさんの手は、やがて何かに観念したように、僕に握られたままになった。

背はララベルさんの方が高いが、手の大きさは同じくらいだ。 そんなことを思っていると、頭の中に一つ言葉が浮かぶ。

僕は、ララベルさんの手を強く握って、伏せていた目をこちらへ向けさせた。


「レイル君・・・?」

「ララベルさん・・・」

「・・・はい」

「僕が、もっと強くなって・・・守りますから」

「え、え、うん」

「だから、安心して・・・泣かないでください」


そういうと、ララベルさんの目にまた一つ波が届いたようだ。僕は、それを指ですくう。


「うん、ありがとう・・・でも、泣いて、ないし」

「・・・そうですか」

「それに、私だって、もっと強くなりたいって思ったから・・・泣いちゃったけど、レイル君に守られるばっかりじゃないよ。まだまだ、私の方が強いんだから」

「・・・はい」

「だ、だから、その・・・女の人に、そういうことを言うのは、もうちょっと・・・後にしたほうが・・・」

「? ダメですか?」

「だ、だって、ほら、レイル君はまだ若いし」

「若くたって、皆を守りたい気持ちはあります」


うんうんと言葉を聞いていたララベルさんの頭が、ぴたっと止まった。


「ん? みんな?」

「はい。隊の皆は、僕が守れるようになります・・・と、言ったつもりなんですけど」

「あっ、そう・・・ふーん」

「アーツ・ホルダーになって、もっと強くなって・・・あれ? どうかしましたか」


繋いでいた手が、スッと離れる。


「いえ、なんでもないです」

「なんか、怒ってませんか」

「いえ、怒ってません」

「ククク・・・レイルも、なかなかやるの」


突然、背後から声がする。背後は、壁のはずなのだが。


「え・・・剣精?」

「剣精様!?」


気が付くと、どうやったのか、僕とララベルさんの間に、剣精が滑り込んでいた。

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