8-4
ジャヴさんとジュリアさんが出かけている間、僕達は病室の前まで戻り、再びララベルさんと二人きりになった。 長いベンチに腰掛け、コボル警備長の回復を待つ。
「まずは、事態が好転してよかったですね」
「・・・うん」
「・・・」
いつものSSLの時と違い、会話が続かない。
「ええと、コボル警備長は、ご家族はいらっしゃるんですか」
「地方にご実家があるようだけど・・・、結婚はしてないよ。寮にも住んでいないから、一人暮らしなんじゃないかな」
僕は頷く。寮に住んでいるのは、僕の知る限りではジャヴさんと僕だけだ。
「・・・そうですか。そういうの、何も知らなかったな」
「コボル警備長のご実家に、最悪のお知らせを出すようなことにならなくて、本当によかった・・・」
ララベルさんは、頬をぬぐう。涙を流していたのだろうか。蠟燭だけが頼りの薄暗い廊下では、よくわからなかった。少し考えにふけっていたようだがすぐに、慌てて僕の手を取る。
「あ・・・、レイル君・・・ごめんね・・・私、レイル君のこと考えずに・・・」
ララベルさんが言わんとしているのは、僕の家族のことだろう。僕は、大丈夫だという気持ちを表すために、無理にでも少し笑った。
「いいんです。僕も、同じ気持ちです」
「うん・・・」
手をつないだまま、静かさと緩慢さを含んだ時が流れる。蝋燭が光になる音すら聞こえそうなほど、静かだ。
最初のうちは、もじもじと落ち着かない動きをしていたララベルさんの手は、やがて何かに観念したように、僕に握られたままになった。
背はララベルさんの方が高いが、手の大きさは同じくらいだ。 そんなことを思っていると、頭の中に一つ言葉が浮かぶ。
僕は、ララベルさんの手を強く握って、伏せていた目をこちらへ向けさせた。
「レイル君・・・?」
「ララベルさん・・・」
「・・・はい」
「僕が、もっと強くなって・・・守りますから」
「え、え、うん」
「だから、安心して・・・泣かないでください」
そういうと、ララベルさんの目にまた一つ波が届いたようだ。僕は、それを指ですくう。
「うん、ありがとう・・・でも、泣いて、ないし」
「・・・そうですか」
「それに、私だって、もっと強くなりたいって思ったから・・・泣いちゃったけど、レイル君に守られるばっかりじゃないよ。まだまだ、私の方が強いんだから」
「・・・はい」
「だ、だから、その・・・女の人に、そういうことを言うのは、もうちょっと・・・後にしたほうが・・・」
「? ダメですか?」
「だ、だって、ほら、レイル君はまだ若いし」
「若くたって、皆を守りたい気持ちはあります」
うんうんと言葉を聞いていたララベルさんの頭が、ぴたっと止まった。
「ん? みんな?」
「はい。隊の皆は、僕が守れるようになります・・・と、言ったつもりなんですけど」
「あっ、そう・・・ふーん」
「アーツ・ホルダーになって、もっと強くなって・・・あれ? どうかしましたか」
繋いでいた手が、スッと離れる。
「いえ、なんでもないです」
「なんか、怒ってませんか」
「いえ、怒ってません」
「ククク・・・レイルも、なかなかやるの」
突然、背後から声がする。背後は、壁のはずなのだが。
「え・・・剣精?」
「剣精様!?」
気が付くと、どうやったのか、僕とララベルさんの間に、剣精が滑り込んでいた。




