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緊急搬送されたコボル警備長が病院に着いた時、容体を見た術師が最初に言った言葉は、
「マナを使っても、回復は難しいかもしれません・・・最悪の事態を考えてください」
だった。
病院にさえ運ばれれば、きっと大丈夫・・・そう考えていた僕とジュリアさんに、厳しい現実が付きつけられた。
その後、駆けつけたララベルさんとジャヴさんに事情を説明して、治療室の前にコボル隊が集まる形になった。謹慎中のディランさんを除き、僕、ララベルさん、ジャヴさん、そして休暇明けのジュリアさんが、コボル警備長の容体が回復するのを待っている。
全員が、一言もしゃべらずに鎮座しているのを、様子を見に来たSSLの仲間たちが、肩を叩いたりして通り過ぎていく。
治療室では、数人のヒーラーたちがマナをコボル警備長へ送っているのだろう。彼らの体力が尽きた時が、治療の終わるときで、それはもしかすると、コボル警備長の命が燃え尽きるときでもある。治療と言えば、何はともあれマナを流し込んで自然治癒能力の回復を図る。それが、この国、この時代の最先端だった。
ララベルさんもジャヴさんも、現実を受け入れるのが難しいようだ。僕以外の全員、コボル警備長と手合わせをしたことがあり、また全員がコボル警備長にはかなわなかったという話を聞いたことがある。
そんなコボル警備長も、今回は後れを取った。いかに奇襲とアーツの相性がいいか、そしてそれを防ぐのが難しいのか、というのが浮き彫りになった日だった。
「まさか、警備長がやられるとはなぁ・・・」
ようやく場の均衡を破り口を開いたのは、ジャヴさんだった。
「あのおっさんに勝てるなんて、剣精くらいのものだと思ってたぜ・・・」
「あぁ・・・私もビビったよ。駆けつけた時には、倒れているのがコボル警備長とは、夢にも思わなかった」
ジャヴさんの意見に、ジュリアさんも賛同する。
「・・・」
ララベルさんは、何も言わずに自分の槍を握って目をつぶっている。
「まぁ、仕事が仕事だから、覚悟はしてたけど」
「まさかコボル警備長がなぁー」
「ああ・・・」
ララベルさんは槍を持って、黙って立ち上がる。
「あれ? どこいくの」
ジュリアさんが、声をかける。
「・・・外の空気を吸ってくる」
「おっ、気を付けてなー」
「・・・」
僕は、顔色の悪いララベルさんを追うことにした。
「あんた・・・こんなんじゃ、あの子に負けるよ」
「?」
ジュリアさんは、ジャブさんに呆れた顔で言った。
病院の入口の道路に、ララベルさんは槍を持って立っていた。不安な気持ちが立ち姿にも表れていて、いつもの芯が通った姿勢が消えていて、僕よりも高いはずの身長が、小さく見えた。
「ララベルさん・・・」
「レイル君・・・ごめんね、心配かけちゃったか」
僕は、無言で首を振る。
「レイル君、君たちを襲ってきたのって、・・・どんなやつだった?」
「中年の男で、顔は、あまり覚えていないです・・・すみません。ただ、糸を用いた技を使っていたので、もしかすると、アーツ・ホルダーかもしれません」
「そっか。私がやったら、勝てるかな・・・」
ララベルさんの顔は、見るからに不安そうだ。
「もちろんですよ」
僕は、即答する。
「でも、コボル警備長が・・・負けるような相手だよ」
「僕もコボル警備長も、城に行くために武器を置いていったんです。それを狙ったのかは、わからないけど・・・普段のコボル警備長やララベルさんなら、負けるわけないです」
「そっか、うん・・・」
ララベルさんは、槍を振って宙に舞う枯葉を刺す。心が落ち着かないときの手遊びのような感じでやっているのだろう。
「私も、ジャヴやジュリアと同じで、コボル警備長がやられたのが、ショックだった・・・あんなに強い人が、負けちゃうなんて・・・」
「今回は、傷を負ったけど・・・コボル警備長は、きっと復活しますよ。責任感の強い人だから、まだまだ僕たちを・・・引っ張ってくれるはずです」
口から出た言葉の軽さに、自分でも驚く。コボル隊長が、あの男に首を絞められた時の、音・・・それが耳に残っている。回復を信じたいが、それが上手にできない。
その時、自分でも信じきれなかった僕の言葉を、肯定する声がした。
「その通りだな、レイル君」
振り返ると、背後に武装した数人のグループと、それに続く十数人の白衣の人たちが病院に向かっている。先頭に立っているのは・・・
「王子!」
静かに、というジェスチャーをして、王子は
「話は聞いたよ。遅くなったけど、王家の治療部隊も助力させてもらう」
といった。




