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アーツ・ホルダー  作者: 字理 四宵 
第七章 軍部と闇
72/200

7-13

ふと、しびれるような直感が働いて後ろを振り返る。さっきまで倒れていた男の姿が、消えていた。血痕が、曲がり角の向こうへと続いている。


「あ、あの・・・! お姉さん!」


女性に呼びかけようにも、名前も知らないことに気づかされる。


「ん? さすがに今は忙しいよ。後にしてくれないか」

「いや、ほら、あれ!」


僕が敵がいなくなったことを伝えると、女性の目が静かに細くなる。


「マジか・・・。肋骨折れているはずなんだけど、元気だなぁ」


ため息をついて、僕と目を合わせる。


「少年、ヒーリングはできるかい?」


ヒーリング。名前を聞いて、修行中、剣精にやってもらった記憶がよみがえる。


「いえ・・・やったことないです」

「それじゃ、私は手が離せない。君が見張りだ・・・いいね」

「わかりました。武器は、これだけですか?」


僕は、棍を見る。


「うん。でも、貸さないよ」

「えっ」

「その棍をとられたら、二人とも勝ち目がなくなるでしょ」

「確かに・・・」

「大丈夫、あのダメージなら、たとえ襲ってきても、君が気づいてからでも十分に間に合う」

「・・・はい」

「コボル警備長から手が離せないから・・・できれば現れてほしくないけど」


よく見ると、女性の額には玉のような汗がいくつも浮かんでいる。

僕同様、ヒーリングは得意ではないようだ。

・・・僕も、頼ってばかりでは、ダメだ。気合いを入れて、マナを再び体に張り巡らせる。

枯葉の割れる音、風の動く流れ、環境のすべてに集中して緩やかに両手を前に出した構えをとる。

僕の体に流れるマナの量を見て、女性が口を開いた。


「少年、気を張りすぎだ。持たないぞ」

「大丈夫です。もう少し、援軍がくるまで・・・」


そうは言ったが、少し調子がおかしいことは、自分でもわかっていた。

コントロールできないくらい、マナの集中が高まっていく。コボル警備長のピンチに直面して、何かスイッチが入ったようだ。

少しずつ、瞳孔が開いて視界が明るくなり、肌で感じる世界が広がっていく。周囲の気配の一粒一粒が、僕の隣で息をしているかのようだ。


「一人・・・男の人が、来ます。今、そこの角を曲がってくる・・・」

「・・・敵か?」

「怪我はしていない・・・少なくとも、あの男ではないです」


僕の言葉通り、角の当たりから聞こえる足音が大きくなってきた。


「大丈夫か!」


武器番と思われる男が、走ってくる。


「コボル警備長が・・・負傷した! 重傷です!」


女性が、大声で男に状況を説明する。


「な、なんだって!?」

「治療できる人を、至急お願いします!」

「わ、わかった!」


武器番の男は、こちらに走ってきた勢いそのままに、Uターンをして戻っていった。

他に人の気配はない。僕たちを襲ってきた、あの男はそのまま逃げたのだろうか。

しばらくすると、複数人のSSL隊員と治療班と思われる人が走ってきた。とりあえず、襲われる可能性は消えたと考えていいだろう。

一息ついて壁によりかかると、マナがたちまち消えていく。やはり、集中しすぎたようだ。


「コボル警備長は・・・助かりますか」


僕は、女性に声をかける。


「・・・わからない。首をやられたようだけど・・・でも、息はあるから、集中治療すれば、たぶん助かる」

「・・・ありがとうございました。僕一人では、コボル警備長ともども、やられていました」

「笛が聞こえたから、着ただけだよ。・・・まさか、コボル警備長がやられているとは、思わなかったなぁ・・・」


僕は、改めて女性を見る。短髪の黒髪、武器は棍。背は僕より少し高いくらいで、ララベルさんほどは高くない。動きやすい活動的な服装をしていて、いかにも戦闘向けという感じだが、脚の出るパンツ姿は、まだ寒そうだ。


「・・・少年」

「はい」

「コボル隊の名前を全員言えるか」

「コボル警備長、ララベルさん、ディランさん、ジャヴさん、僕です」

「・・・その、ララベルは、ボインのお姉さんか」

「ええっ!?」

「いいから、答えろ」

「う、うーん・・・違います」

「ディランってのは、陽気でひょうきんなお兄さんか」

「違います・・・」

「ジャヴってのは、空気の読めないアホ男か」

「あ、そういうところありますね」

「そうか・・・少年よ」

「はい」

「君は、まだ一人コボル隊を言っていない」

「・・・ええ、そんな気がしていました」


僕が頷くと、女性は意外という顔でこちらを見た。


「なんだ、気づいていたのか」

「一人、コボル隊に休暇中の人がいると聞いていたのを思い出しました。疑って、すみませんでした」

「いいってことさ。私も、新人が入ったという噂を忘れていたよ」

「・・・レイルといいます」

「ジュリアだ。後で、飯でも食べよう」

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