7-12
「少ね・・・、生きてるか。ど・・・の・・・死んだら・・・あ・・・よ」
僕は、朦朧とした意識の中で、男とは違う声を聞いて、武器番の応援が来たことを悟る。
頭が上手く回らないが、何か、伝えなければいけない言葉を言っていない気がする。僕は、無意識に女性の方へ手を伸ばす。
「お、おい、動くなって。笛を吹いたのは、お前だろ?」
女性は、男に向かって残心をとっている。女性の獲物は、槍・・・いや、棒だ。男は、うずくまって動かない。気絶しているのだろうか。
伸ばしたその手に、糸が絡みついているのを見て、僕は思い出した。何よりも、大切なことを。
「こ・・・コボル警備長が・・・!」
「ん? 警備長がどうした?」
僕は、自分の後ろの方へ人差し指を伸ばす。いや、人差し指以外を落ちるに任せたという方が正しいか。何かを指さすという行為が、こんなに大変だとは思わなかった。
ちょうど死角になっていたが、指差した方へ視線を送れば、コボル警備長の倒れた足が見えるはずだ。
「警備長! そんな・・・!」
女性の声に、一気に緊張感が出た。女性は躊躇せずに、倒れている男の頭を強く突きで打ち付けると、コボル警備長のもとへ駆け寄った。男は、全く動かなかった。
僕は、呼吸を整えながら、女性を見守る。コボル警備長の知り合いと思われる女性は、意識がないコボル警備長に呼びかけ続けている。
「笛・・・を・・・!」
僕は、声を絞り出して女性に声をかける。
状況解除の笛は、まだ吹かれていない。ここに、武器番の笛が吹かれれば、高レベルの異常事態だと伝わるはずだ。
「そうか! 笛!」
そういうと、女性は自分の胸元に手を突っ込んだ。
普段なら目をそらすところだが、今はそれどころじゃない。
「・・・どうしました、早く・・・!」
「私、今、笛持ってない・・・」
「え・・・?」
SSLが服務中に笛を持たないなど、ありうるのだろうか。いや、そもそもこの人はSSLなのだろうか・・・?
僕の体に、警戒心が戻る。これ以上ないタイミングで命を救われたから安心したものの、この人が味方という保証はどこにもないのだった。
「失礼ですが、所属は・・・」
山をかけてみる。出鱈目を言われても、僕にはわからないのだが、もしかしたらぼろが出るかもしれない。
「コボル隊の人間だよ! この人の部下だよ!」
「え・・・?」
予想外の返答に、言葉を失う。
「僕はコボル隊ですが、あなたなんて知りません」
「え・・・? そんなこと言われても・・・っていうか、そんなの後でいいから、君の笛を貸して!」
「・・・」
確かに、素性が知れないのは捨て置けないが、今はそれどころじゃない。
僕は自分の笛を差し出すと、女性はひったくるように笛をとり、輪郭が変わるくらい大きく息を吸い込んだ。
「はぁっ!」
「・・・!」
僕は、思わず耳を抑える。予想通り、とてつもない笛の音が、辺りに響き渡る。地面の小石が踊りだし、屋根の雪が落ちてきた。
「すごい・・・音ですね」
「これで、さっきの音と違うと思ってくれれば・・・」
笛を僕に投げ返す。
「後は、マナを送り続けて治療が得意な人が来るまで、待つしか・・・」
そう言って、女性はコボル警備長にマナを分け与え続ける。僕は、それを見守ることしかできなかった。




