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アーツ・ホルダー  作者: 字理 四宵 
第七章 軍部と闇
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7-11

男は、早歩きでこちらへ向かってくる。アーツを使うことを諦め、別の手段をとるようだ。未だに逃げる様子は見受けられない。

距離を詰める敵と、距離をとる僕だが、剣精が修行の場で言っていた通り、前を向いたまま下がっても、すぐに追いつかれる。

一瞬、敵の手が揺らいだ気がする。と、すぐに左手に違和感を覚えた。手首に糸が巻きついている。先端に玉のようなものがついた糸を、指弾で飛ばして巻きつけたのか。


「くっ」


すぐに腕から糸を外そうとしたが、その間に距離を詰められた。

予想通り、僕の体は男の方へと引き付けられた。左手が脱臼するかという勢いで、抗いきれない。やはり、体の小さい僕では、単純な力勝負は、勝ち目がない。

糸の引き合いになるものの、僕の体は悠々と相手に引っ張られていく。この間ジャヴさんと戦った相手とくらべ、迷いがない。実戦に慣れているのだろう。


思いきって、踏ん張っていた足から力を抜く。じり貧の状況を嫌い、肘を向けて体当たりを挑んだ。

だが、それも想定の範囲のようだ。横にかわされると、ダンスのように巧みに腕を操られて背後をとられてしまった。

即座に、相手の腕が僕の首にまきつく。僕は、首の前に腕を入れてそれを防ぐ。首を守ることに咄嗟に対応できたのは、さっきの笛の記憶が残っていたからだった。


「ぐ・・・」

「・・・」


苦痛の声が漏れる僕と、終始無言の相手。体勢は相手が有利だが、情況は僕が有利。運命の天秤は絶妙なバランスで揺れている。

時間さえ稼げば、きっと応援がくる。そうすれば、コボル警備長が助かる。それだけを考えて、僕は心を強く保つ。

一瞬だけ、男の腕が緩んだ。これは、撤退か、次の攻撃への布石か。

迷った隙に、僕の前腕と体の間を、糸が通った。


「しまった!」


相手の腕から首を守るために両腕を上げていた、そのわずかな隙間に、糸付きの玉をはじいて通された。たちまち、糸が締め上げられる。

ぞわりと、悪寒がした。追い詰められた死の実感だ。まずい、これは脱出できない。


「祈れ」


初めて男の声を聴いた。短く、しゃがれた、枯葉を踏んだような声が告げたのは、僕の絶命への儀式だった。

締め上げられる首には、指一本の隙間もない。呼吸どころか、首から上へ血が通らないことを実感する。そんな中、男のマナが、腕に集まるのを感じる。さっきのように、体を持ち上げようとしているのだろう。


「う・・・うう・・・」


つま先が地面に着かなくなる。僕の体が宙に浮き始めると、意識があやふやになっていく。じたばたと足を動かすが、空を蹴るばかりで、何もおこらない。

マナが散っていく。僕に残された戦う手段が、消えていく・・・

僕の意識が飛ぶ寸前。地面が大きく揺らいだ。それが何を意味するのか、よくわからなかった。すでに、何かを判断するということができなかったのだ。

僕は、何かに強烈に叩きつけられた。それが石畳だと気付くのは、もう少し後のことだ。


「こりゃー、まずいじゃーん」


知らない女性の声が聞こえる。倒れた僕の頭上で、次の戦いが、始まっていた。

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