山岳の戦い -6
両手と両ひざを地面につけている大黒猿が、まるで謝っているように見えたのだ。くだらないことかもしれないが、人間臭い所作が許せなかった。野生動物にされたことと、知性のある悪意にされたことでは、大きく意味が違う。
「僕の村を・・・家族を・・・暮らしを壊して」
僕は、大黒猿の方へと駆け出した。
「それで済むと思うなぁあっ!」
折れた両腕で、バランスの取れないまま放った全力のサッカーボールキックが、大黒猿の顔面にめり込む。が、丸太のような強靭な首を持つ大黒猿は、それでも倒れずに、僕の脚を掴もうと腕を伸ばす。僕は、軸足のマナを燃やして体軸をずらし、その手をかわす。
胸から出血が続く大黒猿も、両腕を骨折した僕も、生きることを奪い合っていた。
つり橋にはまだ他の大黒猿が残っていて、着実にこちらを目指している。
「立てよ・・・」
カラカラの喉を絞って、声を出した。
「時間もないし、もう終わらせよう」
僕の言葉が伝わったのか、大黒猿は、のっそりと立ち上がった。瞳孔が黒く開いて、死期が近い野生動物特有の、死を現在進行形で学んでいるような表情をしている。
「ああ、死ぬってこういうことか」
口を開いて、そんな言葉を発しそうだ。
折れた両腕、迫る時間、わずかなミスで全てが終わる。
そんなときに、僕のアーツは産声をあげた。