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アーツ・ホルダー  作者: 字理 四宵 
第七章 軍部と闇
65/200

7-6

「おっと、腰を折ってしまったね。ごめんごめん。僕は口を出さないで様子を見ているから、続けてよ」

「・・・・はい」


スクル王子は、脚を組んで静観の構えをとった。彼が味方なのか、敵なのか、僕にはわからない。

僕の正面の軍人たちは、誰も名乗っていない。カール少佐が末席なことを見ると、それより上級の人間なのだろうが、僕とコボル警備長に名乗らないでいるのが当たり前のように椅子に腰かけている。

やがて、カール少佐が、口を開く。


「今回の報告書を見る限り、君は賊を一名切って捨てた」

「はい」

「何故だね」

「何故・・・と、言いますと」


僕は、質問を聞き違えたかと思って、返事をする。


「君の目から見て、危険な人物だったかね」

「はい。ナイフを持って戦闘になりましたし・・・」

「それくらい、その辺の酔っ払いでもやることだ。生け捕りには、できなかったのかね」

「僕には・・・まだ、そこまでの実力はありませんでした」

「なぜかね」

「? なぜって・・・」

「君は、アーツ・ホルダーの台座に上るのではないのかね」


コボル警備長が、口をはさむ。


「少佐、以前にもお伝えしましたが、レイルはまだアーツ・ホルダーには程遠い実力です。戦闘に遭遇して、生きて帰ってきただけで殊勲を立てたようなものです」

「君とは、殊勲の重みが違うようだね、コボル警備長」

「・・・」


恰幅のいい白髪の男が後を追って口をはさむと、コボル警備長は奥歯を噛んで言葉を塞ぐ。スクル王子の側に座っているところを見ると、この軍人は相当な身分なのだろう。


「君が男を殺したことで、賊の目的が解明されないままになってしまった。正体も、わからないままだ」

「正体・・・でしたら・・・」

「レイル!?」


僕が口を開くと、コボル警備長は驚いて僕を見る。


「私見ですが」


そう言って、辺りの様子を見る。誰も何も言わないのを見計らって、続ける。


「あの賊らは、おそらくスパイです。それもこの国に長く滞在していた可能性があります」

「なぜそう思う・・・これからは、慎重に言葉を紡ぐのだぞ、若造」


白髪の男がにらみを利かせる。僕は、かまわずに以前から思っていたことを口に出した。


「彼らは、僕と武器番の同僚に見つかった時に『顔をみられた、殺せ』と言いました。敵国の人間なら、顔をみられたところで追手が来る前に逃げればいいはず。それを選択しなかったのは、この国で活動をしていて、さらに、まだ他に任務があったから・・・そういった可能性が考えられます」

「・・・」


水を打ったように場が静まり返る。カール少佐は、露骨に白髪の男を見ている。自分のコメントを差し控えようとしているのだろう。

長い沈黙は賛同の証だと思ったのだが、返ってきた言葉は、期待通りのものではなかった。


「・・・くだらん、言葉遊びだな。コボル、これは貴様の教えか」

「いえ・・・ですが、一考の価値はあるかもしれません」

「それが、下らんというのだ。賊の死をもって、立証は絶たれている。可能性や推論をこねくり回しても、何の役にも立たんわ」


さっきから、少し気になっていた点を口に出す機会がきた。


「生きている賊が、一人いたはずですが・・・」

「死んだ」


それだけだった。ジャヴさんが命を賭けた確保が、一言で済まされてしまった。・・・恐ろしいのは、僕やコボル警備長が、それを納得できないことを、全く意に介さないことだ。

飲め、と出された煮え湯を、僕は黙って飲む。軍の上層部相手に不手際を責めることはできないし、そもそも不手際なのかもわからない。彼らにとって手際よく行われた行為なのかもしれない。

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