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アーツ・ホルダー  作者: 字理 四宵 
第六章 腐れ兎事件
59/200

幕間

神殿の中。剣精は、静かに僕を待っていた。

僕は、剣精に遅れた経緯を説明する。剣精の表情を見ると、さほど意外というわけでもなさそうだ。


「ほう、そんなことが」

「というわけで、遅れました。すみません」

「笛の音は聞こえていた。何かがあるとは、思っていたさ」

「すぐに、こちらに避難するように言われたんですが、色々ありまして」

「ふむ。だが、相手が人間ならば、私は役に立てないかもしれないぞ」

「・・・え?」

「私はどちらかの人間に肩入れできないからな。仮にレイルが誰かと殺し合いになっても、相手が人間なら手は出せないよ。変異呪種なら、なます切りにしてやるが」

「そうですか・・・」


確かに剣精が人を攻撃できないのなら、今回のような場合で賊から逃げてきても、剣精にはどうすることもできないということになる。


「それで、相手はどうやって倒したんだ?」

「・・・アーツを使いました」


僕は、剣精にアーツを使った状況を説明した。


「うん、まぁそうだろうな。誰かに見られていないか」

「おそらく、大丈夫です。ただ・・・」

「ただ?」

「今回の事件を経験して、アーツ一本しか攻撃手段がないのは、やはり危険だと思いました。」

「うむ」

「もし、アーツをよけられていたら、僕は負けていたと思います。攻撃のバリエーションを増やしたくなりました」


僕が放った言葉を、剣精は珍しく神妙に聞いている。


「攻撃か・・・正直に言って、君がこんなにすぐに現場で戦うとは、思っていなかったよ」

「そんなに、意外ですか」

「おとなしそうな顔をしているからな。笛番になって、相棒を殺されても防御を習った自分だけが生き残ってしまって、それくらいで攻撃を倣いだす・・・くらいだと思っていたんだがな。」当てが外れた」

「妙に具体的なストーリーですね」

「もう後悔したくないからといって、剣をとる奴は少なくない。結局、必要に迫られて使うほうが、迷いや躊躇がない」

「迷いや躊躇・・・」


心当たりが、ないわけではない。戦闘に入る前は、ついにこの時がきたと身構えたのを覚えている。

だが、結局のところ相手が待ってくれなかったのがすべてだ。ぼやぼやしていたら、僕もジャヴさんもやられていたし、あの場では、ああするしかなかった。

そう思っていることを伝えると、剣精は頷いた。


「それは、お前がそう思うことができるということだ。頭ではわかっていても、そう思えない人間もいる。そんな人間に比べれば、戦士になる素質があるんだよ」

「戦士になる・・・素質」

「考えすぎたり、相手の気持ちを分かりすぎたりするのは、戦う人間には不要な要素だ。いっそのこと、どこか欠けているほうが戦いは上手くいく。・・・おっと、お前がそうだとは、言ってないぞ」


僕は、言いたいことが上手く言えなくなってしまった。初めての、人との闘い。両親が存命なら、絶対に許されなかったことをやむにやまれぬ展開で行ってしまったこと。

そして、思ったよりも動じていない自分と、さらに戦い方を求める自分。気が付けば、確かに僕は変質している。


「攻撃を教わるということは、いよいよアーツホルダーになる資格を得るということだ。武器番にも任命されるだろうし、危険は大きくなるぞ」

「はい、わかっています」

「やれやれ。もう少しのんびり育てようと思っていたんだがな・・・で、レイル。童貞を捨てた感想はどうだ?」

「?」


唐突な質問の意味が分からず、僕は聞き返した。


「武人として避けて通れない道だからな。ぜひぜひ、初々しい感想を聞かせてくれ」

「いやその、童貞ってなんですか」

「・・・」

「・・・」

「レイル・・・お前、何歳だっけ」

「16歳という設定の、14歳です」

「・・・そうか、いや、いい。今のは忘れてくれ。お前の口調はどうも大人っぽくて、感覚が狂うな」


そういうと、剣精は胸元からゴソゴソと何かを取り出した。


「ほら、飴をやろう。今のはよそで言うんじゃないぞ」

「いただきます」


飴をなめながら、僕は後でコボル隊長に聞こうと思った。

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