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「ララベルさん・・・!?」
「お、おい? ララベル、何やってるんだ」
「何って、こいつ死んでるんでしょ? レイル君の技の痕跡を、わかりづらくしないと・・・それくらいは、許されるわよ」
「技の痕跡・・・?」
「そうよ。達人が見たら、どんな攻撃が使われたか、死体を見れば一目でわかるのよ。だから、なるべくわかりづらいようにしないと」
「マジかよ・・・武人はおっかねえな」
ジャヴさんは、冷静に死体に処理を続けるララベルさんをみてつぶやく。僕も同感だ。技のために、ここまでするものだとは。
「それくらい、アーツ・ホルダーに命をかけている人がいるの。レイル君も、覚えておいて」
「はい」
「よし、こんなものかな」
「こんなもの」と評された死体は、全身に無数の刺し傷をつけられていた。顔以外のほとんどが容赦なく傷だらけになっている。
「これでも、まだ甘い方なのよ。生前につけられた傷か、私の槍でつけた傷はどれなのか、すごい人にはわかっちゃうんだから。理想は、致命傷を与えて動けなくなったところを、めった刺しにするか、死体を燃やしちゃうの」
槍の先についた血を拭きながら、ララベルさんは言う。
そこで、応援にきてくれた武器番の人たちから状況解除の笛が吹かれた。
呼応するように、街のあちらこちらから状況終了の笛が聞こえる。見回り確認などの作業は残っているが、とりあえずは山場を越えたと考えていいのだろう。
現場の張りつめた空気も、少しほどけてきた。本来夜勤ではなかったララベルさんなどは、あくびをしている。
そこへ、ジャヴさんが肩を組んできた。
「レイル、一ついいことを教えておいてやる」
「はい、なんですか」
「ララベルな。あいつ、胸がないこと気にしているから、言わない方がいいぞ」
「ええっ・・・って、今更ですか・・・みんな、それとなくわかってますよ」
「いや、あいつって怖いんだなぁって思ったから、改めて・・・」
「でも、普通にしていたら、言わないですよ」
「そ、そうか?」
「体のことは言ってはいけないと、父に教わりました」
「でも、あいつ、俺の髪のことは遠慮なく言うぜ・・・」
「それは、あんたが好きでやってる髪型だからでしょうが・・・」
気が付くと、ララベルさんが後ろに立っていた。僕とジャヴさんは、驚きのあまり声も出ない。むんずとモヒカンを掴み、ジャヴさんの巨躯を震え上がらせる。
「ヒイッ! お前、耳にマナを集めてたな! きたねえぞ」
「男同士、コソコソ話をしているのがいけないのよ」
「ま、待て! 俺は、新人に、円滑なコミュニケーションをおくってほしい一心で・・・」
「あんたとリンダくらいしか、言わないっつーの」
ジャヴさんが、路地裏へ引きずられていく。ララベルさんは、一度だけこちらを振り返った。
「レイル君は・・・そういうの、言わないよね」
「はっはい」
「怖いなんて、そんなことないよね」
「はいっ!」
「レイル・・・いつの間に、そんな処世術を・・・」
ずるずると、ジャヴさんの体は闇に吸い込まれていく。
「俺は・・・うれしいよ・・・ビッグに・・・なれよ・・・」
ブーツの先まで見えなくなったとき、何か鈍い音がしたような気がする。
僕一人になったところで、剣精のところに顔を出していないことに気が付いた。
近くのSSLの仲間に声をかけて、神殿の方へと走り出した。




