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アーツ・ホルダー  作者: 字理 四宵 
第六章 腐れ兎事件
57/200

6-9

相手の突きが接近する前に、僕の脚の指は、先ほど地面に投げたナイフを拾っていた。相手の突きを上体をそらしてかわし、同時に足のナイフが顎を貫く。

信じられない、という表情を強調するように、目玉がぐるんと上を向いて、リーダー格の男は崩れ落ちた。僕は即座に距離をとるが、大きく二回痙攣をして、動かなくなった。

アーツ。僕が持っている攻撃方法は、結局これしかなかったのだが、うまくいった。

勝因は、偶然に大きく因るものだった。ジャヴさんの方を見て視線が外れていたので、靴を脱ぐことができ、アーツを使うことができたのだ。


「ジャヴさん!」

「レイル! 無事か」

「はい、やりました! こちらは大丈夫です!」

「おう・・・よくやった。こっちも、終わるところだぜ」


強気な台詞とは裏腹に、ジャヴさんと男は死闘を繰り広げていた。

あちらこちらから出血しているジャヴさんは、その体格差でじりじりと相手を壁際に追い詰めていた。主な動脈と首だけを防御し、多少の出血はマナでカバーしているようだ。

僕も、応援のために回り込んで死角に入ろうとした、その時、


「うおおお!」


ジャヴさんは強烈な前蹴りで相手を壁に叩きつけると、反動で戻ってきた体に両手で斧を振り下ろす。とった、と思ったのだが、斧の刃は男ではなく、壁に刺さっていた。


「ぬ・・・これは・・・!」


マナを込めて力任せに振りかざした斧は、男の両腕を挟むように壁にめり込んで動きを塞いでいた。ジャブさんは、両手の斧に体重をかけて動きを封じている。そのまま体を押し付けて、下半身の動きも封じた。


「レイル、こいつのナイフをとれ」


息の荒いジャヴさんに言われて、僕は慌てて男からナイフを剥がす。そこへ、SSLの腕章をつけた男が駆けつけてきた。笛を聞いた、武器番だろう。


「ジャヴ! 大丈夫か!」

「おうよ・・・こいつを押さえつけるのを、手伝ってくれ」


SSLの男が、辺りを見回す。男の死体と、変異呪種の死骸。そして、傷だらけのジャヴさんの間を、何度も見直す。


「こいつらは、一体・・・?」

「変異呪種の兎を、ばらまいていたんです。笛を吹いたところ、襲い掛かってきました」

「こいつらが・・・!? 確かに、今、街中で変異呪種が目撃されているが・・・」

「賊の三人のうち、一人は生死不明だ。あっちの角に倒れている。もう一人は・・・死亡。残る一人が、こいつだな」

「生け捕りにできたのか、お手柄だな、ジャヴ」

「へっへっへ」


生け捕りできるかどうかでは、後に得られる情報量が大きく違う。

武器を没収されて、武器番に囲まれた男は、即座に捕縛された。


「ジャヴさん、すごいですね、お手柄ですって」

「ま、まぁな・・・よし、レイル、今度いい床屋を教えてやる」

「仮に尊敬しても、あんたと同じ髪型にはならないわよ」

「げえっララベル!」


いつの間にか、ララベルさんも駆けつけて背後に立っていた。また、屋根を飛んできたのだろうか。


「レイル君、大丈夫? 怪我はない?」

「おい・・・どう見ても、俺の方が重傷だろ・・・」

「あんたは体がでかいから、腕の一本くらいなくなっても生えてくるでしょ」


とんでもない言い草だ。


「それより・・・レイル君」

「は、はい」

「技を、使った?」

「え?」

「あの男を倒したのは、レイル君でしょ?」


僕が倒した男を指差して、ララベルさんが言う。

倒し方を見て、ジャヴさんではなく僕だと判断したのだろう。


「あ、はい、そうです」

「そこの男には、技を見られなかった?」


今度は、生け捕りの若い男を差して言う。


「恐らく、大丈夫です」


確証は持てないが、状況を反芻してみればジャヴさんの体に隠れて僕の動きは見えなかったはずだ。


「そう、よかった」


そういうと、ララベルさんは僕が倒した男の死体に、槍を突き立てた。

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