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武器がナイフ一本になった僕を与しやすいと見たのか、敵の猛攻が始まった。それでも、剣精の多彩な攻撃を見ていた僕は、見え見えのフェイントや力任せのラッシュに足を止められることなく、しのげていた。
防戦一方の僕に、業を煮やしたのか、男が話しかけてきた。
「時間稼ぎか。だが、お前はよくても、もう一人はどうかな。苦戦しているようだぞ」
僕たちを挟む位置にいるこの男からは、ジャヴさんが見えているはずだ。僕の後ろの戦局がどうなっているのか、気にならないといえばうそになる。
「ほらほら、もうすぐ死にそうだぞ」
相手の言葉に乗り、僕は背後を振り返る。
「かかったな! バカめ!」
僕の胸を狙う、今までで最速の突き。
やはり、戦闘経験が浅いので焦っていたのだ。
兎のどす黒いものではない、人間の真っ赤な血しぶきが舞う。
一方そのころ、ジャヴさんは若い方の男に苦戦を強いられていた。
「レイルの言う通り、なかなかの腕だぜ・・・ったく」
人並み以上の体躯を持ちながら、ジャヴさんは接近戦が苦手なところがあった。距離を取りながらの遠距離からの攻撃が、一番はまる勝ちパターンだった。
だが、勝ちパターンではないのは、相手も同じようだった。
「こいつ・・・長物使いだな」
ナイフを使ってはいるが、とっさの間合いの取り方のクセがララベルさんに似ている。
何らかの事情で、自分の武器を持ってこれなかったのだろう。おかげで、なんとかいい勝負になっている。・・・とはいうものの、手数の多さにジャヴさんは防戦を強いられていた。
そもそも、斧で相手の攻撃を受け続けるのが、やや無理がある。
相手のナイフが、ジャヴさんの二の腕をかする。
「ぐわっ!」
刃物が体を通る独特の嫌な感触が、鳥肌と一緒に背筋を走る。
「ジャヴさん!」
(しまった。レイルに心配させちまった・・・先輩の俺が、新人の足を引っ張るわけにはいかないぜ)
「気にするな! 自分のことだけ考えろ!」
歯を食いしばったジャヴさんは、背中越しに僕に声をかける。
それでも、敵の連撃は容赦なくジャヴさんの肉体を削っていく。
「ガッ! くそおっ」
援軍が来るのが早いか、自分がやられるのが早いか・・・ジャヴさんは、悩みはじめた。
(後、二本か)
背中に差した手斧のストックを頭の中で数えると、ジャヴさんは持っていた手斧を大きく振り上げた。
「むっ」
相手の若い男が、足を止めて警戒を見せる。防戦気味だったジャヴさんの手斧は、上段に構えられたまま動かない。
「時間稼ぎか?」
男が小さくつぶやくと、ピクリとも動かないジャヴさんに対して、再び間合いを詰めてきた。手斧の、振り下ろされる軌道に気を付けて動けばなんとかなると踏んだようだ。
その瞬間、意表を突くタイミングで手斧が放たれる。
「!」
すんでのところでかわしたが、男には動作の起こりが見えなかった。ジャヴさんは、振り上げた腕をそのまま動かしていない。手首だけで、高速の投げを行ったのだ。
体勢が崩れたところで、もう一本手斧が飛んでくる。回転のタイミングが合わず、刃のところではなく、持ち手のところだったが、頭に命中して一瞬よろめいた。
「ぐうっ」
(よし・・・)
猛攻が止まったのを見計らって、ジャヴさんは背中から残りの手斧を抜く。ストックは、これで最後だ。
そこで、背後から僕の悪態が聞こえてきた。
「くそっ」
ナイフが地面に落ちる音がする。
(まずい、レイルも苦戦しているのか? とっとと終わらせないと)
今度はジャヴさんが、じりじりと距離を詰め始めた。




