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「どうよ、俺のフライング・デス・ソーサーは!」
名前はともかく、細かい調整が必要だろうと思われる、すごい技術だ。離れた兎に一発で命中させたことも考えると、ジャヴさんは見かけによらず繊細な技の持ち主なのかもしれない。
「後でほめますから、今は逃げましょう!」
ガッツポーズをとるジャヴさんを連れて、再び走り出す。
「あとちょっとしたら、応援がくるからそれまでしのぐぞ」
僕は走りながらうなずく。
「そうはいかん!」
先ほどのリーダー格の男が、目の前の角から飛び出てきた。
「・・・マジかよ」
自分のホームで先回りされたことに、ジャヴさんは動揺を隠せない。
「お前らとしゃべっている時間はない。おい! やるぞ!」
足を止めたところに、僕たちの後ろから、無傷だった方の男が追いついてきた。
僕たちには最悪な、挟撃の形になる。
「レイル、どっちが強いかわかるか」
「ええ!?」
突然の質問に面食らったが、少し迷った後にこたえる。走った後の息の切れ方、姿勢のブレ、どちらが強いのかは答えづらいが、姿勢や動作が少しでも剣精に近い方といえば・・・
「たぶん、若い方です」
「よし、俺がそっちをやる。お前はジジイを片付けろ」
「大丈夫なんですか」
「自分の心配をしろ。いいか、俺は自分のことに必死で振り返らないから・・・アーツでもなんでも使え」
「・・・はい」
アーツは、人目に触れて特殊性がなくなれば、価値を失う。ジャヴさんはそれを気遣ってくれたのだろう。
「だが、無理に倒そうと思うな。時間が経てばこっちの勝ちなんだ」
裏を返せば、相手は死に物狂いで襲ってくるということだ。そう思っているうちに、リーダーの男がナイフを抜いて襲い掛かってきた。相手の抜刀に対応して、僕も両刀の構えをとる。
脱力して、目と足にのみマナを使う。相手の攻撃をかわすことに注力した、いつものフォームだ。
いつも剣精との特訓で使う型をとったことで、僕は急速に落ち着きを取り戻した。足の運び、腰の捻り、どこをとっても、この男は剣精より遅い。
呼吸を乱しながら振り回すナイフは、かわすのにさほど苦労はいらなかった。
後は、寸止めがないという恐怖と、はやる気持ちとの闘いだ。振り返る余裕はないが、ジャヴさんのほうも気になる。
「ぐわっ!」
さっそくジャヴさんの悲鳴が聞こえた。接近戦は苦手なのかもしれない。
「ジャヴさん!」
「気にするな! 自分のことだけ考えろ!」
確かに、目先のナイフへの対応で精いっぱいで、フォローなどはできそうにない。
「シッ!」
僕の喉を狙うナイフを、すんでのところでかわす。
「ガッ! くそおっ」
声だけを聴くと、明らかにジャヴさんは劣勢だ。防御をしていて援軍を待っていては、間に合わないかもしれない。ジャヴさんがやられたら、二対一の状況になるのも、非常にまずい。
と思うと同時に、目の前に黒いものが飛んできた。思わず、ナイフではじく。
リーダー格の男が、兎の子供を投げつけてきたのだ。手元を確認すると、ナイフに串刺しになった兎の子供と、多量のぬめった油がついている。これでは、切れ味は期待できない。
「くそっ」
男がニヤリと笑う。
僕は、ナイフを地面に投げて、左手のナイフを利き手に持ち替えた。




