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アーツ・ホルダー  作者: 字理 四宵 
第六章 腐れ兎事件
53/200

6-5

「やるしかない」という言葉を、僕は何度も反芻した。つまり、人と人との殺し合いになるということだ。

SSLに入った以上覚悟はしていたが、まさかこんなに早くその時が訪れるとは思っていなかった。父親が生きていたら、こんなことは絶対に反対していただろう。

果たして、僕に人を殺せるだろうか。


「見ろ」


ジャヴさんに言われて、ハッと現実に戻される。

ジャヴさんが指さす方を見ると、男たちがずた袋から呪われた黒い兎を取り出して逃がしている。

驚いたことに、最初に見た兎よりも二回りほど大きい。僕たちが親だと思っていた兎は、まだ子だったようだ。


「あいつらが、この兎を・・・」

「ああ。ふざけた真似しやがって。だが、これであいつらがカタギじゃないことがわかったな。・・・レイル、お前はとっとと逃げろ」


しっしっと、手を振って僕を逃がそうとする。僕は、それに従わない。


「ジャヴさん、僕も残ります」

「バカ言うな。俺からしたら、大声で助けを呼びに行ってくれるほうが、よっぽど助かるっての」

「でも、もしあいつらが襲い掛かってきたら、一対三ですよ。逃げて回り込まれたら、一貫の終わりです」

「そりゃ・・・まぁ、そうなんですけど」

「ジャヴさん、僕はアーツ候補の技を持っています。一対一なら、おそらく勝てます」

「・・・本当か?」


半分嘘だ。僕のアーツ(候補)は、人間相手に当てるところまで練習をしていない。だが、最悪の事態でジャヴさんがやられるよりはいいと思ったのだ。笛を吹いて援軍が来るまで、逃げまくって敵の目を僕とジャヴさんに分散させれば、それが勝ちだ。

逡巡の後、ジャヴさんはかぶりを振った。


「いや、待て。ダメだ。お前に何かあったら、ララベルに殺される」


この人は、賊よりもララベルさんの方が怖いのだろうか。

泣きそうな顔になりながら、斧を持って出ていこうとするジャヴさんを、慌てて止める。


「お、落ち着いて、何パターンか考えましょう。まず、笛を吹いて相手が逃げた場合、二人とも深追いはしない」

「おう、それが理想のパターンだな」

「追いかけてきた場合、二人で逃げる」

「おう」

「逃げても追いつかれそうになったら、二人で戦う」

「・・・」

「さっきも言いましたけど、一対一ならなんとかなります。だから逃げながら一人だけ数を減らせれば・・・」

「逃げながら・・・? ちょっと待て、それって・・・」


急に、ジャヴさんの顔が輝きだした。活路を見出したのだろうか。


「?」

「俺の得意パターンだぜ」


ジャヴさんは、両手でモヒカンを整えながらニヤリと笑った。


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