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アーツ・ホルダー  作者: 字理 四宵 
第一章 山岳の戦い
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山岳の戦い -4☆

大黒猿の体長は170cmほど。僕とほぼ同じくらいだが、体重は倍以上あるだろう。返り血のついた黒毛で覆われた全身は、筋肉の鎧で固まっている。たとえ蹴りを入れようが、屈強な体はびくともしないだろう。まともに戦うことは、考えられなかった。

僕は、ナイフを突き出しながら、距離を詰め始めた。大黒猿も、ナイフの危険性はわかっているようで、うかつに寄ってこない。それは、家族の誰かがナイフを持って抵抗したからかもしれない。

僕の狙い・・・いや、希望と言ったほうがいいかもしれない。とにかく、僕が大黒猿に勝つ作戦は、僕がただ一つ知っている「アーツ」を使うことだった。

初期のアーツと言われる「浮き刀」と呼ばれる歩法を、幼いころに家に来た行商人から習ったことがあるのだ。近所の友達とチャンバラごっこをする時によく使っていた程度だが、腕はさびていないはずだ。

この技は、アーツを秘匿するのが一般的ではない時代に編み出されたもので、今では多くの人が知っているものだ。同年代の男の子なら、まず一度は練習をしたことがあるだろう。

人間の剣士には、まず効かない技。・・・だが


「お前らは、初めて見るだろう?」


大黒猿は、唸りながらナイフの先を見ている。突き出された刃物への対応を、決めかねているようだ。

獲物を持った人間の剣士なら、やや不自然に突き出された武器を叩き落すなり、動線から身をよけるなりするだろう。

だが、相手は呪われた獣だ。フィジカルで劣る僕のアドバンテージは、術の差。そこしかなかった。

僕は、アーツを発動させる。先ほどの綱渡りで、脚部には十分マナがみなぎっている。目を鍛えている人なら、青白い炎のようなマナが、見えるだろう。


(アーツ・・・浮き刀!)


ナイフを構えたまま目線をそらさず、大黒猿へにじりよる。ここで負けたら、弟と僕はなぶり殺しにされるのだ。失敗は、許されない。

やがて、機は閾に達する。僕の両足は弾けるように地面を蹴ると、両手のナイフは弾丸のごとく大黒猿の胸に突き刺さった。

突然の刺突に驚いた大黒猿は、とっさに防御の姿勢をとるも、太い腕は胸を守るのに間に合わなかった。自分の胸に刺さったナイフを、見開いた瞳孔が映している。


【名称】浮き刀

【発案者】不明

【分類】歩法・構え

【マナ使用部位】脚部

【難易度】低い

【使用条件】容易

【解説】

1 剣を前に突き出すように構えたまま、左足と右足が入れ替わらないように、にじりよる。マナを使い、移動を滑らかにすること

2 前進する速度に合わせて前に突き出した剣を引いて、腕に溜めを作る。

3 腕が十分に曲がったら、脚部のマナを一気に使って詰め寄り、切りつけるか、突きを放つ。

4 相手からは、1~3の間、武器が動いていないように見えるため、一瞬で距離を詰められたように感じ、動作の起こりが遅れる。


発案者は不明だが、初期のアーツと言われている。有名なアーツのため、剣を突き出した構えをとると、警戒されるため、今ではほとんど通用しない。

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