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それから数日間、アーツ審査のない日は剣精の下で修業をして過ごした。アーツの名前については、保留のままだ。
剣精からは攻撃についてはあまり習わず、ひたすら避ける練習を繰り返していただけなので、自分が強くなっているという実感はなかったが、逃げ足と避け勘は成長しているような気がする。
「何か危険な状況になったら、とっとと逃げろ」
というのが、今のところの剣精の教えだった。
ある日、夜勤で剣精のところへ向かう途中だった。僕とディランさんは、雑談をしながら夜道を歩いていた。
「しかし、お前もよくやるな。貯金してるのか?」
「え?」
僕はディランさんの言葉がよく理解でくなくて、聞き返した。
「最低限の休みしかとっていないらしいじゃないか。あまり根を詰めると、ミスや怪我に繋がるぞ」
「あぁ・・・」
休日はまとめて取りたかったので、なるべく連続して勤務に入り、たまの休みは寝て過ごす・・・というのが、僕の生活パターンになっていたのを言ったのだろう。
「若いうちは、回復が早いからな。多少の無理は効くかもしれないが、休むのも仕事のうちだぞ」
「・・・わかりました」
実をいうと、休みをなるべくとらないようにしているのは、貯金以外の理由があるのだが、少し思うところがあって、その場では言わないでおいた。
「剣精の修行はどうだ? 厳しいんじゃないのか」
「そうですね。ちょっとずつ慣れてきましたけど、慣れたころにまた修行のレベルを上げてくるので、結局いつも大変です」
「そうか。俺はあまり剣のことは分からないが・・・剣精のことだからきっと、深い考えがあってのことなんだろうな」
「・・・」
うまくコメントができなかった。剣精は、その場のノリで方針を決めているように思える反面、戦闘の考え方やマナの理論など、深い造詣を見せるところもある。腕が確かなのは間違いないが、師としては、よくわからない。
「とにかく、たまには夜勤じゃない週も作れよ。ずっと夜勤だと疲れがたまるからな」
「わかりました」
そういうと、僕は休みの過ごし方について考えを巡らせる。日常で必要なことは、ほとんど寮がやってくれるので、お金はたまる一方だった。夜勤なので給与が高い一方、日中買い物に出かけることも少なくなったので、今月の給与はなかなかの額になるのではないだろうか。・・・SSLの仕事を本格的にやっていない身分でお金をもらうのは、少し気が引ける。
もう間もなく、神殿が見えるというところで、街の暗闇をひっかきまわすような甲高い音が短く三回聞こえた。僕とディランさんは歩みを止める。
「聞こえたか」
「はい」
「笛番の確認音だな。・・・剣精にも聞こえたはずだ。解除されるまで、このまま待機しよう」
「わかりました」
「音からすると、かなり遠い場所のようだが・・・警戒を怠るな」
僕とディランさんは道の真ん中に背中合わせで立ち、警戒をする。二人とも、いつでもナイフを抜けるように構えをとっている。
何事もなければ、やがて笛番と武器番の二人が吹く解除の笛が聞こえてくるはずだ。
・・・だが、次に聞こえてきたのは、単独の笛だった。それも、武器番の笛だ。
「トラブルのようだな」
ディランさんが言う。僕が夜勤に入るようになって、武器番の笛が吹かれたのは初めてだった。
ところどころで家の明かりが着き、窓が開く。街の人たちも、今のが武器番の笛だと気付いたのだろう。




