剣精の修行 -10
「こんなものかな。よくなったか」
ヒーリングを終えた剣精が僕の背中をぺちんと叩く。太ももを動かしてみると、確かに痛みが引いている。
「かなりよくなったようです」
「よしよし。それでは、昨日の続きだな。今日は、終わった後のマッサージを忘れるなよ」
「はい」
剣精はぶんぶんと剣を振り回し始める。本当に嬉しそうだ。
「やっぱり、体を動かさないと、面白くないよな。さぁ、昨日習ったことを忘れていないか見せてみろ!」
もちろん、覚えている。避けるときはサイドステップ、むやみに飛ばない・・・数少ない記憶は頭にしっかりと叩き込んでいる。
しかし、剣精の前でそれが実行できるかどうかは、別の話だ。結局、今日も不格好に避けまわるだけで一日が終わってしまった。
せっかく軽減した筋肉痛も、またひどくなりそうだ。今日こそは、きちんとマッサージをしないといけない。
神殿の柱の間から差し込む朝日が、夜勤明けの目にひときわにまぶしい。
荷支度をしていると、剣精が背後から声をかけてきた。
「なぁレイル、名前は決まったのか」
「え?」
「名前だよ、アーツのな・ま・え」
「あぁ・・・」
そういえば、昨日の帰りにそんなことを言われた気がする。すぐに寝てしまったので、すっかり忘れていた。
「名前の付け方は基本的に自由だが、技の仕組みが連想されるような名前はすすめないな。解析される可能性は、少しでも少ないほうがいいぞ」
「はぁ・・・」
「決まったら、私に言うんだぞ。修行が終わったら、アーツとして登録するからな」
「じゃ、『つり橋のやつ』で」
「・・・は?」
「駄目ですか? つり橋で初めて使ったから、忘れないと思ったんですが」
「いやいやいや、ちょっと待て。後世に残るアーツの名前だぞ。一生ものなんだぞ。もっとしっかり考えなさい」
「うーん・・・それじゃ、『R-1』とか」
「それ、イニシャルつけただけだろ!」
「そうですけど・・・」
「駄目だ駄目だ駄目だ! 」
剣精は頭を抱えて悩みだす。僕のために真剣に考えてくれているのだろうか。少しじーんとしたところで、剣精の口からよくわからない言葉が飛び出した。
「こう・・・もっと・・・甘酸っぱくなるような名前、あるだろう!?」
「?」
「たとえば、『炎掻龍』とか! そういうやつ!」
「ええと・・・言っている意味がよく・・・」
「『クリムゾン・アイシクル -深紅の氷柱-』とか! 『奈落ニ誘フ爪』とか! 『グレイヴ・オーダー』とか! そういう若気の至りっぽい名前を登録してニヤニヤするのが私の楽しみなんだよおおぉ」
「・・・」
「名付け親がおっさんになって、申請する名前変更の届出を却下するのが最高なんだよおおぉ」
木刀を持ってジタバタと暴れる剣精を見て、僕は
(この人、腕っぷしで色々許されているな・・・)
と思いながら神殿を後にした。明日も、今日と同様に剣精の都合は空いているようだ。
ヒーリングを受けたおかげか、昨日よりは歩けたが、やはり階段を降りるのも危なっかしかった。
どこからともなく現れたジャヴさんと合流して、寮に帰る。
剣精に教わった通り、マナを集中させながらマッサージをして、ベッドに入った。
名前は、妙案が浮かばなかったので、『R-1』でいいや、と思って寝た。




